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                  Tomy jr.

 寄席に行きませんか?(その2)

前回(その1)は、寄席の中でも代表的な演芸である「落語」を中心にお話したので、今回は講談と浪曲についてお話しします。まずこの3話芸の違いですが、「落語」「講談」は1人芸なのに対し、「浪曲」は三味線のお師匠さん(曲師)との2人芸だということと「浪花節(なにわぶし)」と呼ばれるように節(メロディ)が付いた「歌」が入る点が大きく違います。

では共通点も多い「落語」と「講談」の違いは何かというと、「落語」は扇子と手拭だけを使って飲食や喫煙など様々な動作を表現するのに対して、「講談」は張り扇(はりおうぎ)という大きな扇子で前に置いた釈台をリズム良くパンパン叩く。但し上方落語は講談の釈台の様な見台とその前に膝隠しという板を立て拍子木を打ったりするので講談と似ています。

そして噺の内容では「講談」は勇壮な武人や歴史上の偉人など“立派な人”や人の立派さを対象に“聴かせる”芸なのに対して「落語」は“ダメな人”や人間のダメさを対象に“笑わせる”芸です。故・立川談志師匠いわく「落語は人間の弱さを赦す芸」とのこと。なるほど、八っあん、熊さん、ご隠居さん、与太郎等は決して立派な人達じゃないですよね。

実際、「落語」と「講談」に共通の噺もあります。例えば「鹿政談」などは演じる講談師が居なくなった今では古典落語として知られていますが、元々は講談噺です。講談噺としては奈良奉行の川路聖謨(かわじ・としあきら)の名裁きが主題になっているのですが、落語では態度を急変させる申立人や奉行に忖度する与力達の滑稽さが大いに笑わせてくれます。

そして現在の講談界を神田伯山抜きに語ることは出来ないでしょう。とにかく今の伯山人気は凄まじいものがあります。私が会員になっている新宿・末廣亭は通常は「昼夜入替無し」ですが伯山が夜の部主任(トリ)の時は「昼夜入替あり」で昼の部開始1時間前から整理券を配る有様。先日の座・高円寺寄席でもチケット発売開始から窓口に1時間半並びました*



伯山は確かに名手だとは思いますが、彼のような本格派の講談師が居なかった事が問題だと思います。講談師としては半世紀ほど前にNHK「お笑い三人組」に共に故人の三遊亭小金馬、江戸屋猫八と出演してた一龍齋貞鵬が居ましたが彼の講談を聴いた記憶はなく、後の演芸ブームの際には髭と眼鏡で飛び跳ねる故・田辺一鶴くらいしか居ませんでしたから。

一方、「浪曲」では、大昔に故・広沢虎造というスーパースターが居ました。私はリアルタイムで聴いたことはありませんでしたが、どんな街でも銭湯に行くと熱い湯に浸かって真っ赤な顔をした頑固親父が目を瞑って虎造の十八番「清水次郎長伝」の一節「♪旅行けば~駿河の国の茶の香り~♪」を唸っているというくらい、凄い人気だったようです。

実は浅草に木馬亭という浪曲専門の寄席があります。ここは毎月1日から10日までの10日間しか興行していないので定席とは言えませんが、末廣亭や鈴本などの落語中心の寄席ではなく浪曲専門の寄席です。私も還暦過ぎてから一度だけ聴きに行ったことがあるのですが、ディープさと60代の私が若造になる年齢層の高さには圧倒された記憶があります。

また「進ぬ電波少年」というTV番組で坂本ちゃんという芸人を相手に東大受験を指導した「けいこ先生」こと春野恵子さんが今や素晴らしい浪曲師として大活躍しています。彼女は東京大学を卒業してOLをしタレントになり落語家、講談師を経て浪曲師になったそうですが、元々「時代劇とミュージカルが大好き」だったのでピッタリはまったようです**

そして春野恵子のみならず、講談界の伯山のように浪曲界にも新しい世代の波が押し寄せています。玉川太福(たまがわ・だいふく)は今や最も売れている浪曲師の一人で、彼はあの山田洋二郎監督の寅さん映画シリーズの完全浪曲化をしている他、自身でも「荒川区の銭湯巡り」など、大爆笑の自作新作浪曲を美声に乗せてたっぷり聴かせてくれます***

また玉川奈々福は歌ってよし、語ってよし、聴かせて、泣かせて、笑わせることもできますが、なんと三味線も弾けるので曲師も務められるという多彩さです****。先日(2/16)の座・高円寺寄席「講談、浪曲たっぷり!」では、講談の神田伯山とその師匠で人間国宝の神田松鯉、浪曲の玉川太福、玉川奈々福という夢のような共演で実に素晴しかったのです。

トップバッターの神田伯山は時節柄ともいえる忠臣蔵モノの「忠僕元助」、玉川太福は映画「男はつらいよ」で二十歳のマドンナを榊原るみ、寅さんの母親をミヤコ蝶々が演じた第七作をダイジェスト版で演じて大いにわかせました。そして玉川奈々福は浪曲師が主人公の「浪花節更紗」、お仲入り(休憩)後のトリは神田松鯉の「柳田角之進」でした。(2025.2.23)

*:「神田伯山」でyoutubeを検索すると伯山の講談で「鹿政談」等が動画で楽しめます。
**:「春野恵子」でyoutubeを検索すると彼女の創作浪曲等が動画で楽しめます。
***:「玉川太福」でyoutubeを検索すると彼の新作浪曲等が動画で楽しめます。
****:「玉川奈々福」でyoutubeを検索すると彼女の「浪花節更紗」等が動画で楽しめます。

追補:Tomy jr.さんとうさおとの書簡
うさお
 TICAさんも無類の落語好きで寄席に結構通っています。うさおも職場が上野だったので、鈴本とか広小路亭とかがあるので、近所の蕎麦屋の2階で若手落語家が一席を演じることがあり、珍しくも昼の時間だったので蕎麦を手繰りながら聞いたことがあります。池之端の居酒屋で高校の時の仲間の飲み会でも、名前を知っている若手落語家の話を聞き、階下に移って宴会をしましたね。この時は会費が高くて吃驚しました。
Tomy jr.
 ほう,すごいですねぇ
 私も現役の頃に当時飛び出して若竹が潰れたバカラの四代目三遊亭円楽一門の貴楽さんのタニマチに頼まれて勤めていた会社で落語会をし,それが10年間続きました。
 でもね、やっぱり寄席は安くて多くの新進気鋭の芸人が観れますから最高ですね。末廣亭なら入れ替えなしなので12時から21時まで数十組の芸を3千円で楽しめます。私は会員なので2500円です。
 もしご一緒したい方がおられましたらお連れしますよ。同伴者1名までは会員価格ですしね。