今夜はシングルモルトウイスキーで!その5
≪ 元銀行員の独りよがりの四方山話 ≫ final part
※ この著者は、話がすぐ横道にそれて元に戻るのに時間がかかる傾向にありますので、ご注意下さい。
6.世界五大ウイスキー生産国

世界五大ウイスキーとは、ウイスキーの世界的生産国であるスコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本で造られるウイスキーのことです。日本は他の4カ国と比べると歴史が浅いですが、質の高さが評価されて世界五大ウイスキーのひとつに名を連ねています。
ウイスキーの製造方法は各国の法律などで厳しく規定されていて、基本的には国や業界団体などによって定められた条件を満たすものだけが、「スコッチウイスキー」「アイリッシュウイスキー」「アメリカンウイスキー」「カナディアンウイスキー」「ジャパニーズウイスキー」と名乗ることができます。条件を満たさないものは、これらの呼称を使えません。
(1) スコッチウイスキー (ウイスキーの代表格)

最も知られたウイスキーと言っても過言ではないウイスキーの代表格であるスコッチウイスキー。8万平方kmの小さな土地ながら100以上の蒸留所があり、ピートを用いて麦芽を乾燥させることによって生まれるスモーキーなフレーバーも特徴的です。
(2) アイリッシュウイスキー (ウイスキーの元祖)
ウイスキーの始まりの地とされているアイルランドで作られたアイリッシュウイスキー。ピートを使わずに複数回蒸留を行うために、穀物の豊かな香りと軽やかでスッキリとした味わいが特徴で、初心者の方にもおすすめです。
ここで、コスパ最高のアイリッシュウイスキー「ブッシュミルズ」を紹介します。ブッシュミルズの蒸溜所は1608年創業とも言われるアイリッシュウイスキー最古の蒸溜所のひとつで、アイルランドの代表的銘柄です。何故か警察小説で有名な今野敏や堂場俊一の主人公の刑事は、ブッシュミルズを愛飲しています。下図のウイスキーはブッシュミルズで最も一般的な銘柄ですが、円安の現在でも2,000円前後で購入できます。私も実際に飲んでみましたが、とてもまろやかで味わいも深いです。何でこんな価格なのか不思議ですが、家飲み用としては最高のウイスキーだと思います

(3) アメリカンウイスキー (バーボンウイスキーが有名)

アメリカのウイスキーの歴史は諸説ありますが、1776年に現マサチューセッツ州のレキシントンに移住したジェームズ・ペッパー氏が、蒸溜所を建設してウイスキー造りに着手したのが始まりといわれています。
アメリカンウイスキーには、おもに以下の種類があります。
◇バーボンウイスキー
◇コーンウイスキー
◇ライウイスキー
◇ホイートウイスキー
◇モルトウイスキー
◇ライモルトウイスキー
◇ブレンデッドウイスキー
これらを総称して「アメリカンウイスキー」と呼びます。
ポピュラーなのはバーボンウイスキーです。バーボンウイスキーにもいくつか種類があり、内側を焦がした「新品のホワイトオーク樽」で貯蔵・熟成するなど、アメリカの連邦アルコール法が定める要件に従って製造されたもののうち、2年以上熟成させたものはストレートバーボンウイスキーと名乗ることができます。また、ケンタッキー州で造られ最低1年以上熟成したものは「ケンタッキーバーボン」、テネシー州で要件を満たして造られたものは「テネシーウイスキー」と名乗ることが許されています。
米国駐在員時代の思い出ですが、出席した取引先企業のパーティーでバーボンの試飲コーナーがありました。とても美味しかったので、主催者の社長に挨拶した際に「こんな美味しいバーボンは、初めて飲みました。」と話したら、社長はえらく喜んで番号が手書きされたカードを渡されました。このカードの先に社長から紹介されたと電話して、書いてあるバレル番号(樽の番号の事で、何故か米国ではカスク(樽)の事をバレルと言います。)を言えば、今日と同じバーボンが送られて来ますとの事でした。ブラントンの特徴として、ボトルのラベルに必ずバレル番号が記載されています。結局、電話したら取引先の社長払いでバーボンが送られて来そうで、その後のフォローが面倒くさいと思い、電話しませんでした。
実は、私が最も好きなバーボンウイスキーは、「ヴェリーオールド セントニック」という銘柄です。ケンタッキーのヘヴンヒル蒸留所の原酒を仕入れ、独自に熟成させて年にわずかしか生産されないプレミアムバーボンです。アメリカ禁酒法時代にお手製の「密造酒」を限られた人に販売し、そのバーボンを賞賛して「聖人ニックのバーボン」と呼ばれた事に由来しています。リンゴのような甘い香りで、まろやかでコクのある味わいが特徴です。今まで飲んだウイスキーの中で、ベスト5の1つです。
〇 ヴェリーオールド セントニック 12年
(4) カナディアンウイスキー (クセのないライトな味わい)

カナディアンウイスキーは、17世紀後半ごろにビール醸造所に併設された蒸溜装置で、穀物を原料にしたウイスキーを蒸溜したのが始まりといわれています。カナディアンウイスキーの発展は、アメリカの禁酒法時代(1920~1933年)と深い関わりがあり、今でもカナディアンウイスキーの生産量の約7割がアメリカで消費されています。
(5) ジャパニーズウイスキー (繊細さが魅力)

日本の本格的なウイスキー造りは、寿屋(現在のサントリー)の創業者・鳥井信治郞氏が創設した山崎蒸溜所から始まりました。蒸溜技師を務めたのが、のちにニッカウヰスキーを創業した竹鶴政孝氏です。竹鶴氏は、スコットランド留学中にノートに記録したスコッチの伝統製法をもとに、ウイスキー造りに取り組みました。2冊の「竹鶴ノート」を礎に日本の本格ウイスキーの歴史が始まり、今に至ります。
日本の蒸溜所では、独自の酵母や、多彩なポットスチルによる蒸溜、自然環境に合わせた熟成により、ひとつの蒸溜所で多様な原酒の造り分けが行われています。スコッチの伝統を踏襲しつつ他国ではみられない特徴を持つ日本のウイスキーは、香味豊かな美味しいウイスキーとして定評があります。
ちなみに、「ジャパニーズウイスキー」には近年まで明確な定義がありませんでしたが、2021年に日本洋酒酒造組合が製法などの自主基準を制定し、ラベルなどに「ジャパニーズウイスキー」と表示できるのは基準を満たすウイスキーのみとなりました。
とはいえ、ジャパニーズウイスキーの定義を満たさない日本産ウイスキーも、高品質な味わいで人気となっています。また近年は、小規模蒸溜所が造るクラフトウイスキーへの関心も高まっています。
7. 世界に誇るジャパニーズウイスキーの魅力!!
最終章として、世界的ウイスキーブームの中でも、近年急速に人気が高まってきたジャパニーズウイスキーの魅力について述べたいと思います。
海外でも異常なくらいにジャパニーズウイスキーの人気が高まってきた理由として、下記のことが挙げられています。
① メイドインジャパン(日本製)への海外での根強い信頼という伝説。
② 海外での和食ブームから、日本の食文化への興味・憧れが強まってきた事。
③ ジャパニーズウイスキーに共通する繊細でバランスが良い甘い香味が、ウイスキー嗜好の世界的潮流にマッチしてきた事。
④ 世界的なウイスキー品評会でジャパニーズウイスキーがどんどん受賞し、サザビーズやクリスティーズ等の世界的なオークションで極めて高額な金額で落札されてきた事。
⑤ サントリー、ニッカ、キリン等の大手メーカーだけでなく、イチローズのようなクラフトディスティラリー(小規模蒸留所)が台頭して来て、優れたシングルモルトウイスキーを生産されるようになった事。
特に
③のジャパニーズウイスキーの「マッカラン」のような甘い香りと「まろやかさ」は、最大の魅力だと思います。
シングルモルトウイスキーのファンとしては、このようなジャパニーズウイスキーの人気の高さは嬉しい限りなのですが、弊害として海外の投資家(特に中国人)が投機目的でどんどんジャパニーズウイスキーを買い漁るようになって熟成年数の高いウイスキーの在庫は枯渇し始めて価格は吊り上がり、更に最近のハイボール人気によって熟成年数の若い原酒の在庫も無くなって来るというダブルパンチの状況になってしまいました。その結果、大手メーカーの原酒は枯渇してしまっており、熟成年数の高い良質なウイスキーが以前のような価格で買えるには、10年以上は待つ必要があるでしょう。今後の狙い目としては、どんどん進化してきたクラフトディスティラリー(小規模蒸留所)の中から、良質なウイスキーを見つける事だと思います。例えば、大谷翔平がロバーツ監督の誕生日に送ったとされて、話題なった岡山県産のウイスキーがあります。これは日本酒の酒蔵ですがウイスキーも製造している宮下酒造の「シングルモルトウイスキー 岡山トリプルカスク」ではないかと、言われています。岡山県産の大麦麦芽を3年以上熟成させたシングルモルトウイスキーです。私もまだ飲んだことは無いのですが、今度購入して飲んでみようと思っています。
最後に、私が飲んだ中でベスト5に入る2つの銘柄を紹介します。
・ 山崎 オーナーズカスク 1989年 シェリーバット
サントリーのオーナーズカスク・シリーズ(主に「山崎」が販売されましたが、稀に「響」や「白州」も販売されました。「白州」も飲みましたが、やはり「山崎」の方が美味しかったです。)は、サントリーのシングルモルトウイスキーの中で限定版を除けば最高級ブランドになります。とにかく、ほのかな甘みを感じる「まろやかさ」に奥深い味わいは、絶品と言えると思います。残念ながら20年近く前に終売となり、販売時には15~20千円ぐらいの価格でしたが、今買おうと思うと驚くほど高額になっています。上記写真の銘柄はオーナーズカスク・シリーズの中でも最高級品なのですが、ネット販売で200万円以上します。もっと若い銘柄でも、オークションで50万円以上はします。過去に20本ぐらいは飲んだのですが、もう買う気はさすがにしません。現在の飲みかけの1本とストックの1本を、大事に飲んでいくつもりです。
・ イチローズのトランプ・シリーズ
もう1つの銘柄は、クラフトウイスキーの草分け的存在のイチローズのトランプ・シリーズです。このシリーズはスペード・クラブ・ハート・ダイアの12種類にジョーカーを加えて、49種類も有ります。やはり、ほのかに甘さを感じる「まろやかさ」と深い味わいが特徴です。この銘柄も残念ながら終売しており、販売時の価格は15千円でしたが、現在はオークションでも50万円以上はします。結局は、美味しい思ったウイスキーは、終売になると値段が跳ね上がってしまい、とても買って飲むのでは無く、コレクションとして飾っておく「トロフィー」となってしまうのです。従って、シングルモルトウイスキー・ファンとしては、常に新しいウイスキーを求めて飲んでみて、自分が美味しいと思うウイスキーを見つける事を続ける必要があります。
「今夜はシングルモルトウイスキーで!」も書いているうちに書きたい事がどんどん浮かんで、1年以上の長い連載になってしまいました。長期間に亘り、ご愛読して頂き有難うございました。これを機会に、シングルモルトウイスキーに興味を持って頂き、少しでも多くのウイスキー・ファンが増えていく事を願っています。
≪ THE END ≫