ぶらりカフェ歩き
大口の喫茶店
※2012年10月26日に鹿鳴館を訪れた時のドクガク記事を再録
喫茶店が好きだった。コーヒーが好きというより喫茶店が醸し出す雰囲気が好きだった。もちろん今でも大好きだけれど、わたしが愛するお店たちは加速度的に失われていっている。わたしは年をとり、私の愛するコーヒー屋さんが失われていくのは、今の若者たちがじっくり腰を据えて人生や恋愛や自分自身を語らなくなり、もっぱら健康志向になったせいだ、と若い人や時代のせいにして怒っている。
渋谷のデュエットが好きだった。駅前のらんぶるも好きだった。新宿の木馬もDIGもスカラ座も、横浜の白鳥もローズガーデンも。
それは喫茶店を懐かしむのではなく、共に過ごした友人たちや若かった自分を懐かしんでいるだけなのかもしれないが。
鹿鳴館 鬱蒼たるアプローチ 2012年10月26日
ところで、ひょんなことから地元で素敵な喫茶店をみつけた。最近健康志向のうさおが「あなた、あのお店やってるよ」と図書館まで歩いていく途中にみつけてきたのだ。
そこには昔懐かしいコーヒー館の香りが漂っていた。地元大口駅から徒歩2分、駅から近いけれど路地を入った裏通りに位置し、緑に囲まれて入口すら判然としない。
そこが
「鹿鳴館」。
鹿鳴館 レトロな室内 2012年10月26日
お客さんなんかあんまりこなくていいんだよ、たまにふらっと誰かが入ってきてくれればね、そんな感じのまま、いつ行ってもお客さんはいない。コーヒー一杯500円の値段は土地柄にも時代にも似合わないのかもしれない。
鹿鳴館 レトロなマスター 2012年10月26日
でもお店の87才の店主は、当たり前だがこのお店によく似合う。僕が死んだら店は終わりだという。娘さんがいるそうだが、彼女は跡を継がないのだろうか。
もしもおじさんが死んだら、お店をまるごと買い取ってわたしが店主になるのはどうだろう。近所の友達が喫茶学校に通ってコーヒーを淹れるそうだ。いとこが調理師の免状を持っていたな。ひっそりみんなでそんなお店をやれたらどんなにいいだろう、と最近はひたすらこのストーリーで妄想に耽っている。
鹿鳴館 古き良き喫茶店が忘れ去られないことを願って 2012年10月26日
まぁ今のところはおじさんが元気にお店を続けてくれることを祈るばかりだが。
懐かしさ漂う世間から少し距離を置いたような喫茶店は、すべて姿を消したわけではない。わたしみたいな愛好家がどこかで息を潜めている。そしてときどきコーヒーを飲みに訪れる。
ひとりコーヒーを飲んでいるとそこが何処だかわからなくなるような、どこかに連れ去られてしまうような、そこだけ区切られて異なった空間を感じる。ある日お店から出たら違う世界に迷い込んでいたりして。
おじさんが亡くなったのは「横濱の喫茶店」という本に書いてありました。娘さんが跡を継いでいます。
さて、今の鹿鳴館はどんな形で残っているのだろうか。
開業が1981年なので、当時、うさおは鶴見に住んでいたので、この喫茶店で珈琲は飲んでいません。実家に戻ってきてから、「ライ公」の散歩でここまで足を延ばし、その時に行ったんではないかなあ。開業から20年は経っています。Caccoは鹿鳴館のおじさんと話すのが好きで、友達も誘ってよく行っていました。
今でもそうですが、鬱蒼たる木立がアプローチ一杯に茂っており、看板も見えなければ木が邪魔で入るのを躊躇するほどです。お店の中に入ってしまうと、この樹木たちが表の通りを隠し、まるで秘密基地のような感じです。
もともと、大通りからはずれた路地の中ほどにあるので、ふらっと立ち寄るには、見つけにくい所にあるのですがね。
鬱蒼とした玄関回り 塀の上に奇妙な置物が置いてある 2023年12月16日
「横濱の喫茶店」という本を近所の本屋さん「BOOKSえみたす」で買ってきました。2023年の11月の頃です。
「鹿鳴館」、ちゃんと載っています。
この本をもって、2024年12月に行った時には、中年のお客さんもこの本を持っており、一日に二か所以上、喫茶店を廻っているんだと私達に話しかけてきました。とてもハイテンションのかたで、ご自分の喫茶店セオリーを滔々と述べ、語り終わると、リュックを担いでもう一軒廻るからと店を出ていかれました。おお、嵐のようだ。
中はローズウッドの色調 2024年2月16日
ステンドグラスのシェードや船用のグローブ球がレトロ 2024年2月16日
お店の中には大きな船の模型が鎮座しており、壁には竹下夢二の絵が飾られています。これだけでもゴージャスな感じがします。うさお的には内壁が煉瓦積みでアルコーブが煉瓦アーチになっている処がたまりません。(化粧煉瓦ですけどね)
大きな船の模型と竹下夢二 2023年11月14日
健さんも愛読されている「横濱の喫茶店」には、石川町「モデル」、鎌倉駅「イワタ」、関内駅「馬車道十番館」、北鎌倉駅「門」、京急鶴見駅「山百合」、鶴見駅「タンゴ」、山手「えの木てい」、山手「山手十番館」など行ったことがある喫茶店が載っている。マニアの本ですね。
前回、鹿鳴館で横濱名物「ナポリタン」を食べたので、今回はお薦めの「ピザトースト」とオムライスを頼みました。何か野菜たっぷりです。
ピザトーストとオムライス 2024年2月16日
おじさんの跡を継いだ店主の
富田眞由美さんは、私達のことをよく憶えているようで、いつもありがとうございますと挨拶をくれます。特にCaccoのことを「門脇麦」に似てらっしゃいますねなどと言うものだから、Caccoは事あるごとに行っているようです。
※横濱の喫茶店 ぴあMOOK 2023年10月30日から富田眞由美さんの肖像