マホロミのココロミ
                うさお探偵事務所
                 調査員:グリコ隊長
                 調査員:TICA

 マホロミとは何の意味でしょう。マホロバなら知っているんだけどなあ。
 古事記の倭建命の項で

大和は 国のまほろば
たたなづく 青がき
山ごもれる 大和し うるわ(美)し 

 
という項があります。ここで「まほろば」という言葉が出てきます。
 やまとは国の誇れる素晴らしいところ が大意ですが、宮沢賢治のイーハトーブのようなところを指しているのでしょうか。

 「マホロミ 時空建築幻視譚」は冬目景の漫画で、あらすじは以下の通りです。大学の建築科で学ぶ土神東也は、建築家になることを目指しています。ある日、取り壊される古建築の壁やノブに触れると往時の建物の幻影を観てしまう。その洋館で会った不思議な少女から、それは建物の記憶を見たのだと教えられる。
  この漫画の原題である「マホロミ」は広辞苑で引いても出てきません。これは作者の造語だと思われます。音から連想するに「まほろばを見ることができる能力または場の力」という意味かもしれません。何だか船を編んじゃいますね。

 作者は多摩美術大学の出身者だけあって、スケッチ力は大変優れています。中でも洋館や背景は物語の重要なファクターとなっています。結構現実にある建造物や町並みを描いているのではないかと思います。
 そこで、漫画の中の背景を幾つかピックアップし何処なのか検証してみます。人力で行う「マホロミ」です。

 それでは、切っ掛けになった「マホロミ」から探ってみましょう。これがとてつもなく難しい作業だというのは後から分かりました。今迄探した文献からは、同じ画角の絵は存在しません。参考とされたと思われる絵も探せません。だから似たような絵でお茶を濁します。


マホロミ2 時空建築幻視譚

 一番手こずったのが維新前後の横濱、海岸通りの洋館の風景です。そういえば何冊か明治時代の写真の参考書があるぞ。あれを調べれば似たような絵は、すぐ見つかると思ったのですが・・・・。


マホロミ 海岸通りの洋館の風景

 もう最初の絵で躓いてしまいました。参考文献に見つけられません。辛うじて似たようなものを探し出しました。刀剣の鑑定なら「能(よく)」程度で正解ではありません。それがこれらです。

たまくす横浜開港資料館の館内案内)
 F.ベアトの撮影した幕末の横濱風景です。「山手から堀川越しに外国人居留地を望む。右手に東(フランス)波止場、その左手奥に西(イギリス)波止場がある。」の注があります。


横浜開港資料館の館内案内「たますく」

「たますく」 幕末の横濱風景

 う~ん、場所はここで合っていると思いますが同定できません。同じ画角のものをでないとなあ。左右反転してみますか?少しは似てくるか?


「たますく」 幕末の横濱風景 左右反転

 似て非なるものだな。別の文献も観てみましょう。


F・ベアト 写真集1 幕末日本の風景と人びと

F・ベアト 写真集1 幕末日本の風景と人びと

 これはさっきと同じ写真ですね。参考にならないなあ。結局、求める絵は見つかりませんでした。


F・ベアト 写真集2 幕末日本の風景と人びと

F・ベアト 写真集2 幕末日本の風景と人びと

 多分、元絵は英国波止場か、仏蘭西国波止場からの俯瞰写真だろうけど、F・ベアトではないようだ。今度、下岡蓮杖かウィリアム・K・バートンの参考書を買って探ってみるかな。

参考にした横濱の写真集





 気を取り直して、他の絵を観てみましょう。ここはどうやら昔の本丁通り(現本町通り:国道133号)のようです。


丸屋根が特徴的

 このあたりの写真がないので、googleに頼りました。下の写真の右手にある白いレトロな建物は、旧横浜銀行集会所です。昔、銀行員だった廣徳おじさんが連れて行ってくれました。問題は右の街並みの丸屋根です。多分これですね。


国道133号線 googleより

球形の屋根 Casa d' Angela 結婚式場 googleより

 このビルは古くからあるように思えますが、うさおの記憶ではゼネコンに勤めていた時代に新築か改装された建物です。

 次に気になった絵は、昔風のステンドグラスです。よくある文様ですが、作者の意図はもっと別にある筈。多分・・・。


洋館の窓

仕舞屋(しもたや)の窓 同じ文様

 最初見た時に今は無き中華街の安楽園を思い浮かべました。残念ながらこれは見当はづれで安楽園は矩形です。


中華街 安楽園の室内 2009年8月14日

 次に思いついたのがフランク・ロイド・ライトのデザインではないかということです。以下のサイトが参考になります。
hhttps://kyukon-stained-glass.net/frank-lloyd-wright-staind-glass-01/


サイトからの参考例

 似たフレームがありますね。作者はフランク・ロイド・ライトが好きなんじゃないかなあ。でも大正、昭和の窓枠にも似た文様が多く使われているね。多分こっちが正解だな。


大正ロマンの窓枠 https://www.rafuju.jp/

 次の「マホロミ」もいい加減な探索に終わっています。この画角は山手にある「港の見える丘公園」あたりじゃないかと思われますが、ずばりの写真がないので「横浜海洋会館」の屋上からの写真で代用します。


右に神奈川県警、その左にランドマーク・タワー

中央にランドマークと県警本部、税関 2009年9月27日

 この旧軍司令部の車寄せのような場所は、建築探偵グリコ隊長が見つけてくれました。それも瞬く間に。なんと、旧前田侯爵邸なのだそうです。駒場付近は東大生産技術研究所があり、幾度となく足を運んでいたのに全然知らなかった。不覚でした。
旧前田侯爵邸:tripadvisor.jpより絵をお借りしています。


旧軍司令部にありそうな車寄せ

旧前田侯爵邸 

 以下の古洋館は「マホロミ」できませんでした。残念!ご存知よりの方がいればお教えいただいたいです。窓枠は作者のお得意の菱形です。


琵琶湖疏水の蹴上にある旧御所水道ポンプ室のような外観 違うけど!

同潤会アパートのような外観 違う塔屋を組み合わせたのかも

 ほとんど不正解で、もはや「マホロミ」企画は大失敗の感が強い。

 気落ちしながら、同じ作者の「空電ノイズの姫君」も取り上げてみましょう。とりあえず、場所を探ってみることに・・・。


空電ノイズの姫君2

空電ノイズの姫君 楽器屋さん

空電ノイズの姫君 御茶ノ水の楽器屋さん 2020年11月25日

 これはちょっと、いい感じかもしれない。少し元気が出てきたぞ。六角橋にある商店街も使われている。このあたりの写真は撮っていないのでgoogleのお世話になりましょう。
 下の絵でわかるように特徴的な街灯と入口のアーチが手掛かりです。


六角橋商店街のアーチ看板と街路灯

 「ふれあいの」のロゴも参考になります。これもグリコ隊長が見つけてくれました。2016年以前のアーチ型の入口看板です。


http://shoutengai.org/reikai/reikai2015_5.html より

 作画したときと時代が変わったのでしょうか? 今はアーチの看板が三角形のものにリニューアルされています。違うなあ、これでは「マホロミ」企画ではないような気がする。


現在の六角橋商店街 googleより

 更に同じ作者の「アコニー」がありますが、ここにも同潤会アパートが描かれています。建築が好きなんですね。これはTICA調査員が探し出してきてくれました。


アコニーⅠ 冬目景

 しきみ野アパートと門柱に描いてあります。TICA調査員から同潤会アパートで「〇〇野」とあるので「上野下アパート」ではないかと報告がありました。確かに似てはいますが、階数やバルコニーの下に庇がせり出しているところが違うような気がします。


アコニー しきみ野アパート門柱 同潤会と書いてある

アコニー しきみ野アパート

 推測ですが、階段の部分や庇の形状から「青山アパート」あたりが犯人ぽい。


同潤会青山アパート 2024年5月9日

同潤会青山アパート 2024年5月9日

同潤会青山アパート https://www.shibukei.com/headline/17243/

 うさおの愛読書、「よつばと!」で「マホロミ」を試みてみましょう。作者の東清人さんも、大阪芸術大学、神戸芸術工科大学を卒業していますので、大変絵が上手い人です。第14巻に出てくる鉄塔のある道を「こいわいよつば」が「ふーか」と「しまうー」とで歩いているシーンです。


よつばと14巻

よつばと14巻 ヨガ教室に向かう

 「よつばと!」は大変克明に背景が描かれているので、多くの読者が背景探しに熱を入れているようです。漫画では紫陽花市に住んでいることになっていますが、これは架空の都市で、モデルは小手指市だと読者の方が述べています。小手指駅の周りを調べてみると確かにこのようなstreetviewが出てきました。


小手指市の鉄塔 google streetviewより

 
同じくSNS上で話題になっていたのが、「うどん屋」です。


よつばと11巻

よつばと11巻 うどん屋

 
このエピソードはうさおも大変好きな話です。さっきの小手指市、アトリエのある練馬区を調べてみましたが、ドンピッシャのところは見つかりません。全然別物ですが、感じの似ているうどん屋さんがあったので、googleからお借りしました。


正太郎うどん google streetviewより
 
 
再度気を取り直して、「3月のライオン」羽海野チカ著を取り上げてみます。場所は隅田川中央大橋の近傍なので探しやすいです。


3月のライオン1 背景は中央大橋

3月のライオン1 夜の隅田川

 隅田川沿線はミスチルの撮影場所なので行ったことがあります。高層タワマンの形状がヒントになります。多分、このタワマンです。


3月のライオン1 同じようなタワマン 2008年11月2日

 「3月のライオン」は、ちょいとインチキ臭かったですね。同じインチキ臭いのなら「ギャラリーフェイク」細野不二彦著でしょう。作者は慶應義塾大学を卒業し、「スジオぬえ」に暫く所属していました。あのガンダムの戦闘服のデザインをしていたところです。


ギャラリーフェイク 19巻

 これは庭園美術館をモチーフにしているので、出自ははっきりとしています。庭園美術館は朝香宮の自邸として建てられました。アール・デコ様式の建物です。


ギャラリーフェイク 好事家の別荘

東京都庭園美術館 2022年4月1日

 
次も「ギャラリーフェイク」からで、有楽町の煉瓦高架橋下のお店です。店名の「羅生門」が「朱雀門」になっています。


ギャラリーフェイク35巻

ギャラリーフェイク 焼き鳥屋

煉瓦高架下 「羅生門」 2015年7月4日

 だいぶ調子が出てきたぞ。最後に「西洋骨董洋菓子店」よしながふみ著を取り上げましょう。Caccoが夢中になってTVドラマを観ていました。何と言っても、使われている曲が全てミスチルで、それもヒット曲ばかり使われていました。Caccoは「よしながふみ」さんも大好きで、ほとんどの本を持っています。
 ドラマの撮影場所は田園調布だとわかっています。これもgoogleのお世話になりましょう。



西洋骨董洋菓子店1巻

西洋骨董洋菓子店 店の外観

ドラマで使われていた洋菓子屋 庇が特徴的

どうやらガレージのようで周囲の景色も同じ google streetviewより