うさお
江口寿史・著/小学館
江口寿史は「すすめ!!パイレーツ」、「ひのまる劇場」の時代はあまり好きな作家ではなかった。自分の漫画の中に「白いワニ」が来るよと自虐ギャグを入れてくるところが好きだった。
アイディアが出ないと頭が真っ白になる、すごく共感できる。江口寿史は締め切りを守ることが嫌いなタイプで、切羽詰まるまで遊び惚けていた。普通の漫画家はそれでも、間に合わせるために夜を徹し、気力で乗り切るのだが、この人は作画を放り出し、連載を中断してしまう。いきなり筆を折るのだ。
同じようなタイプで、「吾妻ひでお」がいる。原稿用紙が真っ白のままだと、怖くなって放浪の旅に出てしまうのだ。吾妻ひでおは浮浪者に交じり、生活しているところを家族に見つかり、連れ帰えされ、また漫画を描く人だった。
「ストップ!! ひばりくん!」の漫画が連載されたときには、凄い人が出て来たなあと感心をした。自分も真似して描いてみたが才能の差は歴然だった。うさおは可愛い絵柄が好きなのだ。
この手のイラスト風の絵が、その後の漫画界から出てきたのは江口寿史のお陰かもしれない。単線の線画が平坦で色が塗り易いのだ。江口寿史は「鴨川つばめ」に大いなる影響を受けたと漏らしている。
その後のアニメ調画風が多く出てきたが、う~ん、この二人が多少とも影響を与えたかもしれない。
彼の10年先輩に「わたせせいぞう」がいる。同様に漫画からイラストに軸足が移った人だ。この人の絵柄は可愛くないから、うさおは趣味じゃないぞ。
江口寿史はその後も、連載を中断しまくっていたが、何故か出版社には厚遇されており、その後も懲りずに何回も連載が始まるのだ。出版社は物凄い期待感を持っているのだ。
ご本人の風貌からは、連載を放り出すような無責任感は微塵も感じられないが、さてっ、鬱々と考える自己内省タイプで、考えすぎて逃避してしまうのかもしれない。ご本人はデザイン専門学校に在学中は映画を見まくっていたそうだが、うさおも大学時代は奨学金が入ると3本立ての名画座に入り浸っていた。うさおも同じようなタイプかも知れない。
※でも、うさおは映画の筋をほとんど覚えていない。もしかすると、現実逃避のために映画を見ていたのかもなあ。
ともかく、江口寿史は連載を諦め、単品の扉絵を描き始める。これが大うけ。各地で個展が開かれたり、美術誌に取り上げられたりと大活躍となった。
さて近所の本屋さんに行くと、この本がたった1冊だけ置いてあった。しばし考えたが、購入することにした。横浜の有隣堂に行けば大根のようにごろっと山積みに置いてあるのかもしれないが、この地域で江口寿史は希少本だろう。5,500円だ。たっ、高い!。でも、厚さは23mmもある。お買い得か?
中身は今までの集大成というべき、色々な雑誌に書いた扉絵が並んでいる。ここにも出版社の厚遇が見え隠れする。本のサイズがB5版なのだ。つまり出版された雑誌の大きさ、そのままのサイズなのだ。異例の厚遇だ。
多分に大衆受けを狙った感は否めないが、あの当時の絵柄が並んでいるのは嬉しい。
本人は漫画は捨てていないと言うが、十分捨てている。これはイラストレーターの領分である。が、本はマニアックで、ヲタク心を満足させる。この編集者もその類の人であろう。
世の中には江口寿史のファンが沢山いるのだなあ。