Tomy jr.
目標は手段にして目的に非ず?
コロナ禍が一応の終息を見せて年が明け2024年(令和6年)が始まりました。毎年の事ながら
年末になると殆ど覚えていないにも拘わらず、年始には初詣をして御神籤を引き「今年の抱負」や「今年の目標」を掲げる、というのが一般的(スタンダード)な庶民の年中行事ではないでしょうか。「今年こそ5kg減量」の様に三賀日で挫けて消える「目標」もあれば、受験や結婚や転職など人生に関わる重大な「目標」もあり人それぞれです。
2007年、38歳でメジャー挑戦したもののオープン戦で審判と交錯して大けがをし、リハビリ中の桑田真澄のインタビュー番組を観ました。その中で
インタビュアーが「桑田さん、まだ日米通算200勝は目指しますか?」と聞いたので私は驚きました。いくら何でもそれは酷な質問だと思ったのです。桑田が日米通算200勝を目指してメジャー挑戦した事は知っていましたが40歳近い彼が大ケガから復帰して27勝出来るとは思えませんから。*
ところが
桑田の回答を聞いて私はもっと驚きました。彼は「勿論、目指しますよ!」と即答し、さらにこう言いました。「でも達成できなくてもイイんです」私は、なぁんだ予防線を張っているのかと思ったのですが、
彼の次の言葉でさらに驚かされました。「達成しても別に偉くないんですよ」え、どういうこと?「僕は目標を掲げてそれを目指して努力している自分が好きなだけですから」この言葉を聞いて私は思わず、のけ反りました。
【
NHK「レジェンドの目撃者」Webより】
つまり桑田は知っていたのです。
「目標」というものは最終的に得たい「目的」ではなく、あくまでも「目的」を達成するための「手段」の一つだということを。そして私はそのことをこの番組を通して桑田から教わったのです。もし彼が努力の末に目標を達成したらすぐに次の目標を掲げるでしょうし、達成できなくてもやはり次に努力できる目標を探して掲げるでしょう。だから彼にとって
結果としての目標達成の成否はどうでもいいわけです。
私は「目的と手段が連鎖している」ことは知っていました。つまり、ある「目的」を達成するための「手段」を選択したら、次はその「手段」を「目的」としてそれを実現するための「手段」を選択し…という連鎖です。従って「目標」が「目的」化しても問題ないのですが、
我々はついつい「目標」を掲げると、それが最終目的であるかのように思ってしまい、そのさらに上位の「目的」を忘れてしまうという事です。
例えば、健康の維持増進を「目的」にジョギングするという「手段」を選択したとします。
今度はジョギングの継続を「目的」として、毎夕食後15分間を習慣化するという「手段」を選択したとします。この習慣化という手段を目標にして達成しようとする余り、猛暑日や極寒日でも必ずジョギングを敢行することで
結果的に体調を崩したとしたら、それは「健康の維持増進」という上位の「目的」に反することになる訳です。
以前、
大阪なおみのコーチとして彼女をトップランカーにしたサーシャ・バインコーチ**が
某TV局の番組で高校の女子テニス部を一週間指導しました。番組では最後に今まで勝てなかった強豪校との試合をしてレッスンの成果を確認するのですが、彼が熱心に指導した選手は競り負けて泣き、負けた事を彼に詫びました。すると彼は選手に寄り添い「
試合に負けなんてないよ。勝つか学ぶかだ。今日の君は学ぶ日だったんだよ」と言ったのです。
【
当該番組の紹介ニュースWebより】
彼女は恐らく強豪校との試合で勝つことを「目標」としていたでしょうし勝ちたかったでしょう。だから負けて目標が達成できず、まるで全てを失ったように思い泣いたのです。でもバインコーチは違いました。
大切なのは「その試合に勝って目標を達成する」ことではなく「レッスンで気付いた自分の課題を少しでも試合で克服出来たかどうか」です。だからその試合で何かを学ぶことが出来れば、勝負の行方などどうでも良いという事です。
桑田真澄とバインコーチのエピソードを紹介しましたが、ここから「目標は達成出来ても出来なくても良い」という点だけを捉えて
「じゃあテキトーにやればいい」と考えるのは大間違いです。「目標達成よりも上位の目的が大切だという事を忘れるな」という事であり、「目標を達成しようと全力を尽くすからこそ、そのプロセスが結果より尊い」のです。
つまり「目標」は自分が全力を尽くして達成しようとするものでなければ意味ないのです。
これは小平奈緒のケースでも述べた事ですが、野球をやる少年が甲子園出場やプロ野球選手になることを目標に掲げて、
いくら「自らのベストを尽くし」ても、県大会出場はおろか地元チームのレギュラーメンバーにさえなれないかも知れません。でも自分がベストを尽くす気になれる目標を掲げ懸命に取り組めば目標は達成出来なくても、そのプロセスは必ず充実し、その結果からは必ず何らかの事が学べるはずだと思うのです。(2024.02.07)
*:桑田真澄は1968年生まれ55歳で現在は読売ジャイアンツ二軍監督。甲子園での最年少優勝投手(1983年夏15歳)。NPB(日本プロ野球機構)の20年間で通算173勝141敗(全て読売ジャイアンツ)、MLB(米メジャーリーグ)では結局1年間で0勝1敗に終わった。
**:サーシャ・バインは、1984年生まれ39歳のドイツ人。テニス選手だったが18歳でコーチに転身し、2018年~2019年2月半ばまで大坂なおみのコーチとして彼女を世界ランキング1位に導いた。2018年WTA(女子テニス協会)年間最優秀コーチ。