死に直面した自分探しの旅

                            ひでお

 「ひでお」さんは「ニシサン」のお友達です。面白い考え方をする人が面白いものを書いているので、シン・ドクガクの皆様にご紹介したいとのことで原稿を戴きました。ご自身のアイコンはぜひ、この頭の傷跡でということで掲載しております。

「お前はいったい何者じゃい」パート 1

 2023 年 7 月 18 日に脳出血と診断され、そのまま川崎市立多摩病院に入院。2カ月と 10 日後の9月 28日、視覚障害と注意障害改善のために川崎市麻生区にあるリハビリ総合病院に転院となりました。
 脳出血とは思いもしませんでしたが、右側頭頂部に割れるような痛みを覚え、幻覚に襲われたのが7月6日の朝でした。パワーポイント用に取っておきたいこれまでみたこともないシャープな図形や映画マトリックスにあるようなすさまじい速度で点滅する電子回路信号などの幻覚でした。
 食欲はありませんでしたが、歩行はできました。台所に行こうとフスマを開けると身体の左側が柱にぶつかります。
 20 分ほどの距離にあるマクドナルドに行ったのですが、やはり左側が電柱や立ち木にぶつかりました。視野の一部が欠落した所為で、それを注意障害と呼ぶそうです。視覚障害は、パソコン画面の色調が赤っぽく見える。キーボード操作ができない。小説を読むと、最終行の後に、さらに、一行か二行あるような気がするのでページをめくることができない等々の形で現われました。
 多摩病院でもリハビリを行ったお陰ですが(私自身は)ずいぶん改善したと思っています。しかし、プロの目からは未だ不安があるとのことです。この文書のここまでは 70 日ぶりのパソコン使用になる 9 月 29 日の午後 2 時前に作成したものです。何とか使えるようで嬉しく思います。
 脳出血と宣告された時には、現実としての死がこれまでの自分の生き方に対して情け容赦のない問いを浴びせてきました。

 「やり残したことが多過ぎる。今、ここで死ぬわけにはいきません」と医師に訴えた自分がいました。そして、ゾーンにある願いが叶う『部屋』に何の躊躇(ためらい)もなく入る自分を見ました。これは、自分の肯定でした。まさか、死に直面して自己を肯定する自分がいるなど想像もしませんでした。恥じることの多い人生だったからです。
 ゾーンにある願いが叶う『部屋』と云っても意味が通じないと思います。後ほど説明しますが、その前に、今回の私の脳出血と手術はかなり特異なものですのでご心配いただいたみなさまに報告させていただきたいと思います。

 私には 1 万人にひとり、或いは、10 万人にひとりの確率という肉体的な奇形が二つあります。
 1万分の 1×1 万分の 1 は 1 億分の 1 です。10 万分の 1×10 万分の 1 なら 100億分の1です。日本の人口 1.2 億人。世界の人口 80 億人です。
 私の脳出血の原因と手術を困難にした 2 つの奇形の組み合わせを持つ者は日本に一人か二人、或いは、世界でもわずかしかいないというもののようです。
 子どもの頃から変わり者と云われてきましたが、肉体奇形に関しては、正真正銘の変わり者ということになるのでしょう。
 まあ、笑っていただく類の話ですが、診断と適切な手術戦略を採ってくださった医師の先生方には感謝以外の言葉はありません。

 奇形の一つは、今回の脳出血の診断名にあります。「脳動静脈奇形破裂による脳出血」です。受けた説明にこうありました。
 「頭を流れる動脈には、主に血流を送る内頚動脈と推骨動脈、それに、頭の筋肉・皮膚に血液を送る外頚動脈があります。通常これらの血管は、それぞれの組織をめぐって使われた後、静脈に流れ込み、それがまとまって頭の正中や目の奥、耳の後ろなどにある静脈洞と呼ばれる硬膜(脳を守る膜)で作られたパイプ状の部分を通り心臓に帰っていきます。
 「脳動静脈奇形破裂による脳出血」の原因は、妊娠後(胎生)2~4 週の時に発生する先天的な奇形です。
 一部の頭の動脈が、先天的な奇形部分(ナイダスと言います)につながり、この部分は周囲の組織をめぐらずそのまま静脈へ流れ込んでしまったのが、この病気です。

 血液が動脈から直接に奇形部分、そして静脈に流出するため、静脈内部の圧が高くなります。静脈の圧が上がると静脈が拡張し、静脈壁の弱いところから出血を生じます。この奇形部分(ナイダス)の場所により、意識障害、知能障害、てんかん、手足の麻痺等の症状が出たり、場合によっては静脈が破綻して脳出血やくも膜下出血を生じ死亡したり後遺症を生じることがあります。年間の出血量は 3%前後と云われていますが、一度出血が生じると 6%前後出血する危険性が上がる」そうです。というものですが、普通は、奇形を生じた 30 年から 40 年後に出血するらしいのです。

 この部分は周囲の組織をめぐらずそのまま静脈へ流れ込んでしまったという部分を読むと、動脈の新鮮な血液が毛細血管を経由して頭全体に回らない、つまり、「血のめぐりの悪い奴」ということになりませんか(苦笑)。

 もう一つの奇形は、今回採っていただいた手術戦略「脳動静脈奇形塞栓(そくせん)術」に関連するものです。これが、8月9日に行われた一回目の手術でした。
 つまり、血液が動脈から直接奇形部分につながって流れると静脈内部の圧が上がって静脈が拡張し、静脈壁の弱いところから出血する。それを防ぐために、奇形部につながる頚動脈の血液の流れを止めてしまう。動脈内に栓をして止めるのが塞栓の意味です。

 どうやるかというと、「足の付け根の動脈にシースと呼ばれる管を挿入して、ここを通してガイドカテーテルと呼ぶ直径 2mm 程度の管を頸部の動脈まで挿入し、その中を通してマイクロカテーテルを目的とする流入動脈まで入れます。
 マイクロカテーテルというのは、血管内手術で目的部位に造影剤を入れたり液体や固体の(血液の流れを止める)塞栓剤を入れたりする細いカテーテルのことだそうです。

 ここからが、もう一つの奇形に関連する微妙なところです。
 万が一、奇形部(ナイダス)につながらないで周囲の組織をめぐる細い動脈を塞栓してしまったら、本当に「血のめぐりの悪い奴」になるどころの話ではありません。したがって、細い動脈一本、一本、慎重に検査します。誘発試験と呼ぶそうですが、短時間作用する麻酔薬を入れて反応をみながら「周囲の組織をめぐる動脈かどうか」チェックするわけです。「周囲の組織をめぐらない」動脈と確認したら、固体もしくは液体の塞栓物質を細いカテーテルから注入して流入動脈と奇形部分を閉塞させる。閉塞させたらカテーテルの位置を変えて作業を繰り返す大変に神経を使う施術です。
 さらに、神経を使わなければならなかったのが、私の血流の方向が普通とは違って逆向きだからということでした。それが、もう一つの奇形です。
 内臓が全部逆の位置にある。
 内臓逆位と呼ぶそうですが、早く云えば、裏返しですね。心臓が左ではなく右にあります。盲腸も逆です。右脳と左脳も逆になります。私は小学 4 年生の時に知りました。大学1年生の時、真っ暗な部屋で X 線透視をしましたが、技師から「君、後ろ向きになってはダメだよ」と、腰に手をやって「あ、いいのか」と。
 とにかく細かな神経をお使いになって奇形部の閉塞部が 50~60%に達して造影されなくなったところで塞栓術終了です。

 大成功だったようです。

 その 1 週間後の 8 月 16 日が二回目の手術でした。
 頭蓋骨に 4 つの穴を開けて開頭して、塞栓した奇形部を取り出しました。

 開頭部を縫うのかと思っていましたが、ホッチキスで留めるんですね。
 看護師さんのひとりが、野球のボールみたいと云いながら撮ってくれたのがこの写真です。右2枚がホッチキスを抜いた後です。

 色違いのこっちは怖いですね。

 私自身は、二つの奇形はちょっと変わった生物の変異と思っていますので、卑下することも差別される謂れもないと思いますが、世が世であったなら見世物小屋のスターになっていたかもしれません。
 「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」ってなもんです。




 スター願望。わたしにもあります。二つの奇形の組み合わせに当たる確率は、1~100 億分の 1。
 年末ジャンボの 5 倍から 500 倍になる 1 等金額。
 私を拝んで宝くじを買う。



 話はころりと変わります。

 ゾーンにある願いが叶う『部屋』に何の躊躇(ためらい)もなく入る自分を見たのは自己肯定と申しました。
 何年か気にかかっていたストーカーという映画の話です。

 1998 年に芥川賞を受賞した作家花村萬月の小説「ロック・オブ・モーゼス」でこの映画を知り、無料の YouTube で観ました。3 時間以上の大変な映画です。

 作家萬月の人間観を見るという形で紹介する方が映画を台なしにしないと思いますので、できるだけ忠実に小説から引用します。

 ブルースに取り憑かれた主人公朝倉桜が沖縄で初舞台を踏んだ後、正月に札幌の小さなライブハウス「ゾーン」で演奏することになり、千歳空港に迎えにきた経営者の三島さんに店名の由来を聞くところから始まります。
 高校を抜け出たばかりの年齢の桜をミラーした花村萬月のストーカー論と思えばよろしいかと思います。


 「ゾーンという店名は地帯という意味でいいんですか?」
 タルコフスキーは?
 「聞いたことがあるような。誰かが喋っていました。」
 今はなきソ連の映画監督です。ゾーンは、SF(サイエンス・フィクション)と云っていいのかな。微妙ですけど。
 ストーカーという映画に登場するふしぎな場所で・・・

 怪訝そうな桜の表情に気付いた三島さんは曖昧に言葉を呑み、しばらく沈黙のあと、説明してくれた。
 ストーカーというのは、今や特定の個人に異常な関心を持ってつけ回す危ない人の意味になってしまったけれど、本来は密猟者といった意味です。立入禁止になっているゾーンという場所に秘密で案内する人のことですが。
 桜が頷くと、三島さんは言葉を呑んで運転に集中した。桜も凍結して危うい銀色に光る路面から急上昇してフロントガラスに沿って跳ね上がり、白い筋となって流れ去る雪を見つめた。ふと思いついたかのように三島さんが言った。
 最後の場面、障害のある娘が超能力を発揮するんです。超能力といっても・・・ストーカーの話らしい。どうやら三島さんはすべてを語らずに、中途で思案する癖があるらしい。それで苛立たしいかといえば、沈黙が程良い加減なので急かす気にもなれずに桜も黙って耳を傾ける。
 究極です。超能力というと派手な SFX(映画の特殊撮影効果)を思うかもしれませんが、そんなちゃちなものでなくて・・・
 「CG(コンピュータ・グラフィック)とかがどうこうじゃないんですね」
 なにせ 1979 年の映画ですから。
 「私が生まれるはるか前や」
 ホテルにプレーヤーがあると思うのでぜひご覧になれば・・・
 どうやら DVD があるらしい。お願いしますと桜が頭を下げると。勢い込んで言った。
 その場面、ごくちいさく歓喜の歌が流れるんです。
 ベートーベンの第 9 です。映画音楽の究極です。
 障害のある娘こそが嘉(よみ)されている(祝福されている)と思うのですが・・・

 (筆者注)「地球が終末にきた時、全人類で歌いたいよね」という鳥肌もののコメントがあった 1986 年のカラヤン指揮する歓喜の歌です。
         

        https://www.youtube.com/watch?v=Qt0T_fe5K6E

 ここまでで、ゾーンが映画ストーカーに出てくる怪奇現象の起こる場所というのがおわかりと思います。

 札幌すすき野のライブハウス、ゾーンでの年越しのライブが終わり、しばしの休息にも飽いて自然にメンバーが集まって演奏を始めると突然、モーゼと他のメンバーの相剋がむき出しになり、モーゼス分解の危機に陥ります。モーゼはそのまま退団するのですが、札幌から南下して京都で終ったツアーの後、桜はモーゼに会いに行きます。そして、カフェで映画ストーカーのゾーンにある願いが叶う『部屋』について語ります。

 「あのな」
 うん、
 「お正月は映画、見た」
 映画?
 「三島さんから借りたストーカーっていう DVD、ソ連の監督の映画」
 「凄い映画やった。私には巧く説明できへんけど、そこに行くとどんな願いでも叶うっていう『部屋』があるねん。」

 モーゼは、ハンバーガーの残りをかじる。
 おとぎ話みたいなもんなん?
 「ちがう、リアリズムの極致や」
 ようわからん。
 桜はかまわず話す。
 「そこに行くには命がけやねん。ストーカーていうのは、密猟者って意味で、立入禁止になっていて、簡単には入れないゾーンの奥にある願いが叶う『部屋』に案内する人のことねん」
 映像を言葉で説明するのは難しい。それでも桜は語らずにはいられない。
 「わたしの喋りは拙いから、せっかくの映画を台なしにしてしまうかもしれへんけどあえて喋るね。その『部屋』を尋ねたいっていう小説家と科学者がストーカーに案内されて、さんざん苦労して危険を冒して、どうにかその『部屋』の直前まで辿り着くんやけど、ところがいざとなったら小説家も科学者も入ろうとせえへんねん。小説家ていうのは表現する人の象徴いうのんかな。たぶんわたしもギター弾いて歌って表現するいうことで少しだけ引っかかっているような気がする」
 一気に畳み込んだせいか息苦しくなり、息を継ぎ、さらに勢いこんで続ける。
 「その『部屋』に入れば、わたしは世界一、宇宙一のミュージシャンになれるんやで。けど、入らへんねん。小説家は『部屋』に入って最高の傑作が書けるようにて願わんと、みんなを、世界を皮肉っぽく嘲笑う能書き垂れるばっかりで、科学者は宇宙の秘密を解き明かしたいと願わんくて、それどころか内緒で持ってきた爆薬で、『部屋』を爆破してしまおうとする」
 ハンバーガーを平らげたモーゼが目で先を促す。大きく頷いて桜は続ける。
 「じつはな、この『部屋』に入った唯一の人がいるねん。ストーカーの知り合いのヤマアラシという綽名の人でな、ヤマアラシはゾーンの肉挽き機で殺された弟が甦るように願ったのに、なぜか『部屋』が与えたんは、大金やってん!」
 そんなら、願いが叶う『部屋』というより的外れな『部屋』やんか。
 「ちがう。『部屋』で叶えられるのは、じつは、心の底に隠れているもんなんやの。いちばん切実に希っている無意識の願いが叶うわけやん。わたしの勝手な解釈やけど、この世界、たくさんのお金があればいろんなことができるやろ。女の人にももてるやろし、他の人を支配もできるし」
 音楽活動もじつは経済というシステムから逃れられぬことを思い知らされつつある桜は自分に引きつけて言い、気恥ずかしさを隠さずに続ける。
 「だから、『部屋』に入ればお金持ちになってしまう人が続出してしまうって思うんやけど、けどヤマアラシは自分が家族思い、弟思いと信じ込んでいたんやね。
 あるいは自分を買いかぶっていた、かな。でも、現実は、無様なお金持ちになってしまって、自分の心の裏側の浅ましさを思い知らされてな、首を吊ってしまったんやて―」


 「結局、小説家も科学者も願いが叶えられるよりも、自分でもはっきり把握できていない心の奥底のどろどろしたものが現実化してしまうことを畏れて、『部屋』に入らなかった。 矮小化してまとめてしまえば、小説家も科学者も、そしてヤマアラシも、素直に金が欲しいと云えない自尊心のようなものが『部屋』に入ることを邪魔した。文学とか学問とか、家族とか、愛情だとか、あるいは、音楽だ、ロックだ芸術だ―と偉そうことを口にしていたって、ロックそれ自体と無関係なところで実際に大金持ちになってしまったら―自分の心の奥底を目に見える形で提示されてしまったら、どうすればいいか。小説家も科学者もわたしも一人だけやったら。表面上とはいえ、素直によい作品をよい発見をという願いを『部屋』にぶつけて、結果として唐突に理由もなくたくさんのお金が手に入ったとしても、誰にも知られずにすむならば黙ってありがたく戴いて遣うだろう。けれど、残念ながらストーカーというすべてを見届ける役目の案内者がいる―いや、そんな単純な話ではない・・・・・」

 これが、願いが叶う『部屋』です。
 タイミングが偶然合っただけなのか、運命なのか・・・
 実は、7 月 6 日から続いた頭痛と幻覚が 14 日朝、突然消滅しました。正常に戻ったので、午後外出して友人に会い、7 月 14 日付の朝日新聞「天声人語」の切り抜きをいただきました。スマホの写真は読みにくいので、横書き転写します。

  数学が苦手な生徒は往々にして、正解ではなく、ある疑問にたどりつく。いわく、何でこんな勉強をするのか。将来、いったい何の役に立つというのか。10 代の筆者もよく、そんな嘆きを重ねていた ▼ああ、そうかと気づいたのは、藤原正彦さんの著書『数学者の言葉では』を読んだときだ。「役に立たない、というのは、価値がないということではない」と数学者は説いた。大切なのは何かを深く考えること。すぐに成果が出ずとも、その行為がいかに尊いかを教えられた ▼彼らもまた、そんな深遠な世界に魅了されているのだろう。国際数学オリンピックが20 年ぶりに日本で開かれた。世界から集まった若き天才は約 600 人。1 位が中国、2 位が米国だった▼ 日本も 6 位と健闘した。「数学は紙とペンさえあればできるけど、奥が深いです」。金メダルをとった都立武蔵高 3 年の北村隆之介さん(17)はうれしそうだった。ひとつの問題を解くのに、何十時間も考え抜くことがあるとか▼卓越した才能たちにとって、この数学の五輪は格好の晴れ舞台だ。
 同時に、数学好きの裾野を広げる効果にも期待したい。より多くの人の関心を呼べるような仕掛けづくりがあればと思う。数学は万人をひきつける美しさを持っている。「真理の探究とやらでゆうゆうと時間つぶしをするのは、最も人間らしい生き方なのかも知れない」
 藤原さんはそうも書いている。世界レベルにはほど遠くとも、私なり、自分なりの探究を楽しみたい。(2023・7・13)

 
分数と少数で落ちこぼれる 70%近い子どもたちを減らせば、必然的に数学好きの裾野が広がりますが、コラムニストのより多くの人の関心を呼べるような仕掛けづくりがあれば・・・に本気度を感じた私は、私流の仕掛けづくりのアイディアを天声人語を通じて朝日新聞に提供しようと張り切りました。
 いくつもの記事の材料になるし、絵本の出版もお任せしたいと決断しました。
 一部、編集し直さないとならないと 7 月 15 日の朝、パソコンを開けると再び、(脳出血の)視覚障害が現れてパソコンが使えません。16 日、17 日と回復を待ちましたが叶わず、友人の強い勧めもあって 18 日に多摩病院を訪れることになったという経緯です。送ろうとした資料は以下の三つです。

1. 大人の算数絵本原稿
   第1部 絵本本文(引用文献資料リスト付)
   第2部 本文補足演習問題
   第3部 成人算数能力と経済損失日英比較(引用文献資料リスト付)


2. 「算数不安解消 母子対話」シリーズ1~4。
   (絵本制作のために3年間調査分析した公開済資料)


3.内閣府に対する提言書(2022 年 8 月送付済)-未発表資料
       

 脳出血と診断されたとき、医師の先生が、「何の仕事をしているのか」と尋ねてくれました。「一銭の収入にもなっていませんが、イノベーションリーダーの育成です。20 年やっています。やらなければならないんです」と答えた記憶があります。そして、天声人語が頭から離れず、資料を全部持ち込んで朝日新聞にお願いしようとゾーンの『部屋』に入る自分が見えました。
 お金が与えられるとは考えませんでした。
 もし、『部屋』が間違ってお金をくれたなら、それで絵本制作・販売チームを作ればいいという考えも一瞬頭を過りました。
 しかし、お金だけでいいチームは作れない。チームの人選や意識の統一に費やす時間はないと思いましたから、お金が与えられることはないと確信しました。
      
 執念なのか、入院から 6 日後の7月 24 日。カテーテルで造影剤を投入した 3 時間の CT 検査がありました。造影剤が入ると、最初、首回りが熱くなり、次いで前頭葉周辺が熱くなりました。ハッカ油に触れて、肌がスーっとするような感覚を覚えた瞬間に砂漠の幻覚が現れました。
     
 砂漠に茶色のカーペットが敷かれ、端のカーペットを巻いたところがアルミ箔のように光っている。そこが朝日新聞に送る資料が入っている USB メモリー群。
    
 CT の筒に入った私の頭の先にマジックミラーがあり(実際にはありません)、その向こう側に医師の先生たちがいます(写真を撮るだけなので医師はいません)。
 私は、先生たちに叫びました。「先生、このニューロンの発火順序が、USB にある資料のストーリーなんです。ご理解ください」と。
 3 時間の検査でしたが、幻覚のお陰でストーリーがどんどん湧いてくる。退屈しません。検査の数日後の回診時に、先生に尋ねました。
 「造影剤で幻覚が生じるのは普通ですか?」
 あまり聞いたことはないですね。

 この叫びが役立ったかどうか知りませんが、何と 65 歳以上の人口 3600 万人の10%に近い 300 万人が大人の算数絵本を購入しました。『部屋』は偉い!

 おまけとして、朝日新聞社さんには、「算数不安解消」をうたい文句にした「大人の算数絵本」英語版の出版も進言しようと思います。算数不安解消の本は世界にありませんから、喜ばれると思います。
        
 算数不安になると自信を失います。努力してもできないと思う子が多くなると言います。それが、自己認知度です。
        
 対象国は、日本よりも算数不安の大きい国、ブラジル、コロンビアだけではありません。韓国、米国、英国もターゲットです。
 数字は点数ですから日本の子の成績自体は良いのです。しかし、算数不安のために自己認知度が低い結果です。教育支援は外交テーマにもなっていますので、外交関係の一役を担うことにもなります。ブラジルの年少人口は 4400 万人、総人口に対する割合は 20.3%。コロンビアの 14 歳以下の人口は 1100 万人。
 米国は、とりわけ算数不安解消に熱心ですから、小学生 2400 万人が対象になります。宣伝次第で世界で 1000 万部ぐらいは行けると思います。
 国内 300 万部が先になりますが。

 なぜ、65 歳以上限定出版かというご質問ですか?

 『部屋』に入らなかった小説家のように私だって、みんなを、皮肉っぽく嘲笑う能書きをたっぷり垂れたいです。愚痴も云いたい。一番はこれ。不愉快な世代間断裂。2023 年 9 月 15 日のこの記事のヤフー版、読者投稿を読みました。

 「100 歳以上」9 万 2139 人 53 年連続増、最高齢は 116 歳
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE150J80V10C23A9000000/

 長寿はすばらしいことだと思うけど、その一方で、日本の金融資産 2,000 兆円のおよそ 70%が後期高齢者が保有しているらしい。物価高に苦しみ、庶民が増税を甘受してまで裕福な高齢者を支える必要があるだろうか?もっとも、高齢者の経済格差も極端に二極化しているらしいが自分も小市民の 1 人として受任限度にきている感さえある。(政府の政策など)
 欧米の資産家や成功者は晩年になると国家のために寄付したり、慈善事業を展開したり、社会還元、社会奉仕に勤しむ人間が多いが、日本にはその文化も風潮もない。全て欧米に追随する必要はないが、いいことは真似をしてもいいはずで、後世のためにも貯めこむばかりでなく、せめて消費に回してもらえたらいいのだが、これは小市民のやっかみにしか聞こえないかもしれない。

 この投稿に応えて、
 この事実がある以上、今のビジネスマンたちは老人の顔色を伺いながら商売しないと利益につながらないという事だよね。未来を作る若者よりも、今日明日死んでもおかしくない老人が財産を独占している現状をどこかで断ち切らないと成り立たない。

 この 2 年ほどこの種の投稿をよくみます。中には、40 代 50 代と 70 代の罵り合いもあります。

 脳外科の先生に、「一銭の収入にもなっていませんが、イノベーションリーダーの育成です。20 年やっています。やらなければならないんです」云った私は、2005 年に、育成のためのウェブ・セミナーを公開しました。
      
 ややこしいことをやってきたので、ややこしい話は嫌だと耳を塞ぐ年配者が多いのは、知りすぎるほど知っています。めったに云わない愚痴ですが、これは、願掛け愚痴。清水の舞台から、いや、京都は遠い。近くの崖から飛び降ります。

 脳出血で入院する 2 カ月前の 2023 年 5 月。大井町の駅の近くの喫茶店で友人とコーヒーを飲みました。隣の 30 代後半の男性二人の会話に、私たちの耳が釘付けになりました。「老後のために 6000 万円作らなければならない。一番いい投資信託は・・・」という会話でした。2千万とか3千万円というのが、普通。倍以上です。家に帰って、資料を調べました。1970 年からの賃金統計。
     

 この統計から、1970 年に 25 才だった人と賃金が下がり始めた 1998 年に 25才だった人の 23 年間の累積賃金を比べました。年の差 28。
     
 1 億 3,800 万円対 6,340 万円。2020 年の 75 歳の実入りは倍以上。6,000 万円必要と言った 30 代後半の男性の話の裏付けがこれです。そして、世界に類のない日本の消費者物価推移。
      
 経済が伸びないから物価も上がらない。たっぷり貯め込んだ高齢者はホクホク。
 一方、新型コロナでインフレに転じたから若い世代にはダブルパンチ。
 高齢者と若年層の断裂の原因が、経済にあるのがわかります。日本経済の「失われた 30 年」というのは、こういうことです。

 このパート 1 は、2023 年 10 月 25 日のリハビリ病院退院前に書いたものですが、絵本出版のために編集し直していた 2024 年 1 月 28 日。今度は、「ビートたけしが、高齢者に“喝”」という記事。この読者投稿にある世代間断裂の例です。
       
https://news.yahoo.co.jp/articles/0c280a859cbb44aa305734aee46be397387070aa

 70 代にはスキルがないと批判する人。

今の70代って大した税金も保険料も払わず昭和中期~平成中期に年功序列のままお気楽に会社員やってきたからスキルの無い人間が多い。一番実入りの多かった世代なのに、何をやってきたんだか。

 スキルというのは、高齢者のパソコン使用率の低さや情報通信技術(ICT)の理解と利用ですが、その通りです。反論が二人からありました。

多少そうですね。でも、若手・中堅社員として家庭を省みずパワハラ何のそので、モーレツに働き日本の経済が一番輝いていた時代を支えてきた世代でもあります。その時の蓄積のお陰で、日本はなんとかもってます。

今の 70 代が頑張って来たから今の日本が有るとも言えますよ。この年代の一番の失敗は子育て。子供の躾まで手が回らなかったこと。

 最初の人の「多少そうですね」がスキルに関する反論ですが、実際は、多少どころではありません。しかし、お二人の反論からは、日本に繁栄をもたらしたという自信が伝わってきます。
 お二人に、このグラフの書き込みをどの程度知っているのか尋ねてみたいものです。スキルだけの問題ではない。65 歳以上 3,600 万人全体の課題です。
 断裂の根っこにあるのが、技術進展と政府政策に対する年配者の関心の低さと理解度の低さです。「もう、いいよ、面倒なことは」です。
 マイクロソフトやグーグルに象徴される IT 革命が始まり、さらに、第 4 次産業革命 ICT(情報通信技術)が 2015 年から始まりました。
 政府も寝ていたわけではありません。大学発ベンチャー 、イノベーション 25、そして、アベノミクス で、経済を活性化しようとしました。
      
 を知っている人はほとんどいません。周りに聞いてごらんなさい。いませんから。テレビや新聞の報道にはあるのです。それでも、知らない。
 国民の関心がない国の政策がうまく行くはずがありません。「失われた 30 年」は政府と国民の両方の責任です。もう一つ、愚痴言います。

 16 歳から 65 歳までの労働人口 7000 万人の内 38%、ほぼ 40%がパソコン未使用で情報通信技術音痴。2019 年の OECD の調査。
 知っている人は少ないでしょうね、これも。
   
 逆に、16 歳から 65 歳までの使用率が約 60%ということですが、65 歳以上のパソコン使用やインターネット使用者はどのくらいと思いますか?
 EU 各国のデータを見ます。日本は 10%程度じゃないでしょうか。
 65 歳以上の年代は日本の弱み。3,600 万人。
   
 アイルランドをカタカナにした理由は、ICT サービスの輸出額が世界トップだからです。今の日本では、話にならないのです。
   
 65 歳以上の年代は日本の弱みと云いました。しかし、強みにできれば 3,600 万人という数はとんでもないエネルギーになります。どうしたら良いのか。
 これも、運命かもしれません。脳出血になって良かったな~と思うことがあります。3,600 万人をエネルギーにする方法が見つかったからです。
 実は、情報通信技術(ICT)を 65 歳以上に説明するのは本当に大変でした。しかし、今、入院しているリハビリ病院の理念と基本方針を読むだけで、誰でもわかることに気付きました。バンザ~イです。
     
 茶文字にしたのが情報通信サービス。医師の診断した情報が、看護師、リハビリ療法士に瞬時に伝わる。看護師は、患者の状態に的確な看護を行う。リハビリ療法士は、診断の結果に見合うリハビリ方法を考えて実行する。その結果が、医師や看護師に直ぐにフィードバックされ、治療に反映される。これが、チーム医療です。情報を共有して専門知識と技術を患者ひとりのために使う。
 そのためにコンピュータと通信手段(インターネット)が必要になる。
 昔とはスピードが違う。スピードは命そのものです。医師も看護師もリハビリ療法士も専門知識をつけるためにお金をかけて学校に行き勉強する。そして、さらなる研鑽を重ねる。
 誰もが年を取る。認知症にもなる。折角の研鑽に感謝もできなくなるかもしれない。そうなる前に感謝すればいい。

 コンピュータを覚えろなんて言いません。
 インターネットの仕組みを覚えろなんて言いません。

 情報通信技術ってすごいんだな
 情報通信技術のお陰で元気でいられるのか
 専門知識を覚えて一生懸命に研鑽している人たちに感謝しなければならんなと思って口にすればいいだけです。茶飲み話で十分。黙っていたらダメです。
 どうせ、この程度のダジャレですから。
 びっくりしましたけどね。伊東ゆかりさん。
          
 ICT る?って。
        
 茶飲み話で、3,600 万人の興味と関心、そして、感謝があれば、産業は必ず発展します。日本経済も復活します。

 小学生の算数がリハビリ・プログラムにも使用されているのがわかりました。
 小学生の算数とパソコンでパワーポイントやったら、リハビリも速いし、家族の心配も少しは軽減できます。ですから、大人の算数絵本読んでください。
 パワーポイントで二重橋のアーチの長さも計算してみてください。大人の絵本にありますから。
         
 65 歳以上が ICT と算数に関心と興味を示せば、16 歳から 65 歳の意識も当然変わります。そして、日本経済の「失われた 30 年」に終止符が打てます。

 誰もがみんな死ぬ。その時、捨てる自分が見えるなら、そんな幸せはないと思う。

 肉体奇形と変わり者の思考は関係ないと思いますが、「お前はいったい何者じゃい」パート 2 で若干考えたいと思います。
 とにかく、ここまで生意気なことを書けるまで回復しつつあります。ご心配いただいたみなさまに、とりあえずご報告させていただきました。
                              ひでお
                     2023 年 10 月 4 日(オリジナル)
                     2024 年 2 月 1 日 (最新更新)
 脳出血 2 年前です。今は、見る影もありません。ぐやじい。