今夜はシングルモルトウイスキーで!その3

≪ 元銀行員の独りよがりの四方山話 ≫ part 3



※ この著者は、話がすぐ横道にそれて元に戻るのに時間がかかる傾向にありますので、ご注意下さい。

4.スコットランド6大産地別のお勧めモルトウイスキー蒸留/醸造所 ≪後編≫

(3) スペイサイド地方 (speyside)



 「ウイスキーの聖地」として知られるスペイサイドはハイランド地方の一部にありますが、中心部ともいえるスペイ川沿いにある50以上の蒸留所がひしめくエリアを特に区切ってスペイサイドと呼び、ハイランドと分けるのが一般的です。この地域に多くの蒸留所が密集しているのは、そのぐらいウイスキー作りに最適な環境(冷涼な気候、スペイ川の豊かな水源、大麦の産地等)であることの証明であり、マッカラン、グレンフィデイック、グレンリベット等の世界的に評価の高い蒸留所が目白押しとなっています。スペイサイドウイスキーの特徴は、フルーティーな甘みがあって口当たりが良く、クセがなくて飲みやすいことです。クセが強くて、スモーキーな香りが特徴であるアイラウイスキーとは正反対の特徴となっており、この2つの地域はスコッチウイスキーの双璧と言えるでしょう。近年のウイスキー業界の潮流としては、世界的に甘みがあってクセがなくて飲みやすいウイスキーの方が好まれる傾向にあります。私も以前はラフロイグ等のアイラウイスキーの方を良く飲んでいましたが、最近は年のせいかマッカランやグレンフィディック等を多く飲むようになって来ました。(でも、ガツンと飲みたい時はアイラです。)

① マッカラン ( The Macallann )





 マッカランは1824年設立され、スペイサイドで最初に設立した蒸留所のひとつです。世界的評価として「シングルモルトのロールスロイス」と絶賛されており、マッカランは正に最高級のウイスキーブランドと言えるでしょう。シングルモルトの販売量も、グレンフィディック、グレンリベットに次いで世界第3位です。(スペイサイドで上位3位を独占です。)



 味わいの特徴としては、スペイサイドで「最小の蒸留器(スチル)」を使用する事で「なめらかでクリーミーな口当たり」を可能にしており、「シェリー樽熟成」のこだわりによって「フルーティーかつスパイシーな風味」をもたらしています。



 マッカランと言えば、やはりシェリーカスクですよね。マッカランで使用しているシェリー樽について説明すると、熟成に使用される樽は主に「スパニッシュオークのシェリー樽」、「アメリカンオークのシェリー樽」です。この2種類の厳選されたオーク材は乾燥・整形・火入れ等の工程を経て樽の形となります。そして完成した樽はスペインのシェリーボデガへと送られて、オロロソシェリーを詰めたのちに12〜18ヶ月間寝かされます。ここまでの樽を作る工程には約6年の歳月がかかっており、圧倒的に強いこだわりをシェリー樽に持っているのがよくわかります。



 マッカランの代表的な銘柄としてお勧めなのは、やはり何と言っても「マッカラン18年シェリーオークカスク」です。しかし、最近の円安や世界的ウイスキー・ブームにより価格は急騰しており、どんなに安くとも5万円以上はします。一度は飲んで頂きたいですが、18年は無理でも12年ならば大幅に安くなって1万円台で手に入ると思います。マッカランのシェリーカスクは、ウイスキー好きなら一度は飲むべきです。



 上記は、2002年に限定販売された「マッカラン1874レプリカ」です。「マッカラン1874」を分析して再現した復刻版(レプリカ)です。たまたま偶然に購入して飲んだのですが、非常に美味しくて衝撃を受けました。今まで飲んだシングルモルトで、ベスト5に入ります。但し、今では見つけるのも大変で、価格も30万円以上はすると思います。



 ちなみにシングルモルトウイスキーとして世界最高値で取引されたのはマッカラン・インペリアル「M」で、サザビーのオークションにおいて62万8205ドルで落札されました。高さ約70センチ、6リットルの大きなクリスタルのデカンタ入りで、マッカランによれば、20万近い樽の中から2年間かけて7つのシェリー樽を厳選し、25~75年物の珍しい原酒を調合したそうです。



 尚、2015年9月に通常サイズの瓶にボトリングされて「ザ・マッカランMデキャンタ」の名称で限定40本が日本国内でも販売されましたが、価格は70万円でした。

② グレンフィディック ( Glenfiddich )





 グレンフィディックはスペイサイド地方のダフタウン(年間を通して気温差がとても少ない地域)にあり、1887年に創業しました。名前の由来はゲール語で「鹿の谷」という意味で、ロゴにも鹿があしらわれています。その滑らかで飲み易い事から人気は高く、グレンフィディックは世界で最も売れているシングルモルトです。
 特徴としては、創業当時から洋梨のようなフルーティーな香りに強いこだわりを持っており、クセの強いスモーキーさは感じられず、非常に飲み易い事です。特に、シェリーカスクが美味しいです。そういう味わいとしてはマッカランに似ているのですが、マッカランと比べると価格はかなりリーズナブルです。ですから、私も気合を入れて飲む時はマッカランですが、普段飲みはグレンフィデイックがもっぱら多いです。



〇 グレンフィデイック19年ディスカバリー バーボンバレル



〇 グレンフィデイック19年ディスカバリー レッドワインカスク



〇 グレンフィデイック19年 ディスカバリー マディラカスク
 少しマニアックなお勧めのグレンフィディックとして、「グレンフィデイック19年ディスカバリー・シリーズ」があります。王道はシェリーカスクなのですが、このシリーズでは①バーボン②レッドワイン③マディラ酒の3種類の樽で熟成させたカスクタイプを販売しておりました。どれも美味しかったのですが、個人的にはマディラカスクが1番だと思いました。

③ ザ・グレンリベット ( THE GLENLIVET )





 ザ・グレンリベットはスペイサイドのリベット地区に位置し、1824年に政府による初めての公認蒸留所として設立されました。グレンリベットの前にザ(THE)が付くのは、この事が所以となっています。ライバルであるグレンフィディックとは、シングルモルトの販売量で世界トップの座を激しく争う戦いを繰り広げております。 特徴は、スペイサイドのマッカランやグレンフィディック等と同じように、ノンピートでフルーティーな香りで飲み易さにあります。



 お勧めは、王道であるグレンリベット18年です。18年物シングルモルトの価格としてはかなりリーズナブルで、ネットで探せば1万円以下で購入が可能なところが良いですね。

④ その他

 スペイサイドのその他の有名な蒸留所としては、グレンエルギン、グレンロセス、グレンキース、ベンローセス、インチガワー等がありますが、私も少ししか飲んだことはありませんので、割愛します。


(4) キャンベルタウン ( Campbeltown )



 キャンベルタウンは、スコットランドの西側にあるキンタイア半島の先端付近に位置する都市であり、地理的にはハイランド地方とアイラ島の間に位置するウイスキーの生産地の一つです。かつては現在のスペイサイドと並ぶほどウイスキー作りが栄えた地域であり、世界のウイスキー首都とも呼ばれましたが、主な輸出先であったアメリカの禁酒法などの影響により、かつては30以上の蒸留所があったウイスキー都市はわずか3つの蒸留所(スプルングバンク、グレンスコシア、グレンガイル)だけとなりました。ウイスキーの特徴としては、海に近いことから潮のフレーバーが強く、甘い風味を持つことで知られています。

① スプリングバンク ( Springbank )





 キャンベルタウンの蒸留所なら、何と言っても「モルトの香水」とも称されるスプリングバンクです。スプリングバンクは1828年に設立され、大麦の発芽工程(モルティング)からすべて自分達で行う自己完結型で、作業の大部分を人の手作業で行うという、非常に手間ひまをかけたウイスキーづくりを頑固に守っている蒸溜所です。
 スプリングバンクで驚くことは、全く特徴やコンセプトの違う3種類の銘柄(スプリングバンク、ロングロー、ヘーゼルバーン)を作っている事です。特にスプリングバンクは「女のウイスキー」、ロングローは「男のウイスキー」と呼ばれ、全く正反対の特徴のウイスキーとなっています。是非、スプリングバンクとロングローを、飲み比べてみる事をお勧めします。



 本当は18年物が王道ですが、かなり高額ですので今回は12年をお勧めします。滑らかなバターのようなボディと豊かなフルーティーな味わいが素晴らしいバランスです。 12年は常にカスクストレングス(加水せず樽から出したままの度数)で商品化されておりますので、水割りにするか、ストレートなら水を一滴加えると、ミルクチョコレートとバニラの香りが一気に広がります。「モルトの香水」と呼ばれている事を、堪能出来ます。ちなみに、もう少し低価格でお飲みになりたいなら10年もお勧めです。バーボン樽とシェリー樽の絶妙な組み合わせで熟成しており、完璧なバランスです。飲み易さでは、却って10年が一番美味しいかも知れません。



 ロングローピーテッドは、とにかくピートの効いたウイスキーがお好きな人にお勧めです。一口目からガツンとスモーキーな香りが口中に拡がりますが、徐々にリッチでクリーミーな味わいも感じられ、信じられないほど絶妙のバランスです。アイラモルトとは、また一味違ったスモーキーさを感じられます。

② その他
 キャンベルタウンには他にもグレンスコシア、グレンガイルの2つの蒸留所がありますが、何れも飲んだことが無いので割愛します。


(5) ローランド ( Lowlands )



 ローランド地方はスコットランドの南側に位置し、穏やかな気候でグラスゴーやエジンバラ等の大都市が多くあり、どちらかと言うと都会的な地域です。このような都会化の流れと、より安価なグレーンウイスキーの方へシフトした事により、以前は40以上の蒸留所がありウイスキー造りが活発でしたがだんだんと衰退し、現在は古くからの蒸留所は3つ(オーヘントッシャン、グレンキンチー、ブラドノック)しか残っていません。クセが余りなく、ライトで爽やかな味わいが特徴で、どちらかと言うとシングルモルトウイスキー・ファンには馴染みのない銘柄が多いです。私も、オーヘントッシャンしか飲んだことはありません。

① オーヘントッシャン ( AUCHENTOSHAN )





 オーヘントッシャンは、スコットランド随一の大都市グラスゴーから北西16キロほどに立地しています。ローランド地方は気候が穏やかなこともあるのか、ライトなウイスキーが多く、この地域を代表するシングルモルトであるオーヘントッシャンも軽やかでライトな味わいが特徴です。その味わいの特徴と立地条件から、都会的でカジュアルなシングルモルトとしてスタイリッシュに愉しまれています。ちなみにオーヘントッシャンとは、ゲール語で「野原の片隅」の意味です。



 オーヘントッシャン12年(私は、これしか飲んだことは有りません)繊細な香りでスムーズな飲み口にアーモンドやキャラメル様の甘さ、シトラスの甘い酸味が感じられます。要は飲み易いという事で、価格も4000円台とリーズナブルですので普段飲みにお勧めです。


(6) アイランズ ( Islands )



 アイランズは、スコットランドの北東から南西部の島々(オークリニー諸島、ルイス島、スカイ島、マル島、ジュラ島、アラン島)に分類されます。アイラ島は単体で圧倒的なウイスキー生産量もあり、有名銘柄も多いことから、アイランズには含まれない事になっています。蒸留所は、上記の6つの島々に7つあります。特徴は、生産する島ごとに異なった風味があるのですが、総じて男らしく塩っぽい味わいが多いです。

① タリスカー ( Talisker )





 タリスカーは、1830年にスカイ島のカーポストに設立されました。スカイ島は、冬でも気温が下がりにくく、雪が積もることはまれですが、冬には沿岸の岩肌に荒々しい波が打ち寄せます。「タリスカー」の個性である力強く荒々しい潮の香りや味わいは、こうした自然にも起因しています。また、スカイ島は天候が変わりやすく、しばしば雨が降って濃霧に覆われることから「霧の島(ミストアイランド)」とも呼ばれています。
 「タリスカー」では、雨水から生まれた湧き水を、蒸留所そばのホークヒルの地下水源から取水し、仕込み水に使用しています。島に広がるピート(泥炭)も、タリスカーのスモーキーフレーバーの要因にもなっています。個人的には、タリスカー独特のスモーキーさは大好きです。「宝島」の作者のスティーブンソンもタリスカーをこよなく愛し、「酒の王者として思いつくのはタリスカー」と語り、「KING OF DRINKS」と賞賛しました。タリスカーの魅力は、強烈な潮の香りやスモーキーさ、そして「爆発的」とまでいわれる黒胡椒のような香味であり、その力強い個性を感じるために、是非、ストレートで飲むことをお勧めします。



 お勧めは、やはりタリスカー18年です。ヨーロピアンオークのシェリー樽で熟成させた原酒を使用している18年は、2007年開催のWWAで「世界一のシングルモルト」と賞され、まさに究極の1本です。タリスカー独特のスパイシーさとスモーキーさは、熟成により見事にエレガントなバランスとなり、そして長く続く余韻は非常に優しさを感じる味わいとなっております。

②  その他

 その他のアイランズの蒸留所としては、ハイランドパーク(オークニー諸島)、アビンジャラク(ルイス島)、トバモリー(マル島)、アイル・オブ・ジュラ(ジュラ島)、アラン(アラン島)があります。ハイランドパークとジュラ、そしてアランは、比較的有名です。 しかし、残念ながら私は飲んだことが無いので、割愛させて頂きます。

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