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 幸せのメカニズム   - 実践・幸福学入門 -
 前野隆司・著/講談社現代新書・2013年

《総評》

 この本は「幸せ」に対する「工学(engineering)」的なアプロ―チという点でユニークだ。 以前の幸福論は哲学者によるものが多く読者は著者の哲学的な思想信条に共感できないと有用ではなかった。哲学(philosophy)は科学(science)の一分野(その逆との考えもある)なので事物の真理を探究するが、工学は真理(what)がどうであれ(電話や蓄音機の発明等)世の中に役立つ方法(How to)を探究する学問であり、世界中の人々や社会を「幸せ」にする事を目的にしている。そもそも「人間にとって幸せとは何か」という問い自体が哲学的であるが、本書は敢えてここには踏み込まず世界各国のアンケート結果で「自分は幸せだ」と回答した人達にはどんな傾向があるか、また他の設問に対する回答結果との相関の有無等を分析している。因子分析やクラスタ分析の結果、4つの因子が「幸せ」との相関が高いという結果になった。従ってその分析結果自体は論理的客観的であり、あとはその分析結果を「どう解釈するか」という点にのみ心理学等の科学的アプローチをしている。相関ある4因子をどう表現するかも解釈次第だが私は「能力発揮」「他者との協調」「ポジティブ」「マイペース」の因子だと解釈した。同書で解説されている「主観的幸福/客観的幸福」「地位財/非地位財」「フォーカシング・イリュージョン」「幸福と不幸の非対称性」「プロスペクト理論」「ピグマリオン効果」などは“目から鱗”の興味深い理論であり、深く納得させられた。

《出版刊行歴》

2013年12月20日第一刷発行。

《構成と内容》

増補新版のためのまえがき、まえがき、
序章 役に立つ幸福学とは
第1章 幸せ研究の基礎を知る
第2章 幸せの四つの因子
第3章 幸せな人と社会の創り方
あとがき、謝辞、付録 幸福に影響する要因四十八項目、参考文献、全260頁

《著者プロフィール》

 前野隆司(まえの・たかし)1962(昭和37)年山口県生まれ。東京工業大学院修士課程修了。工学博士。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長。

《読書の経緯》

 ネット広告代理店を辞めてプータローをしている25歳の次男の所蔵書として知ったもの。

《所感》

 同書には自己評価が出来るテスト(簡単なアンケート)も付いていて、自分の性格や思考のパターン、4因子の傾向なども分かる。結果として、私自身は極めて自分が「幸せ」だと回答する「幸せ」との相関があるとされる要素が極めて高いという事が分かった。(2023.10.18)