今夜はシングルモルトウイスキーで!その2
≪ 元銀行員の独りよがりの四方山話 ≫
part 2
※ この著者は、話がすぐ横道にそれて元に戻るのに時間がかかる傾向にありますので、ご注意下さい。
4.スコットランド6大産地別のお勧めモルトウイスキー蒸留/醸造所 ≪前編≫
スコットランドには、アイラ島、ハイランド、スペイサイド、キャンベルタウン、ローランド、アイランズの6つの産地(上記地図参照)に150余りの蒸留/醸造所があり、それぞれの地域のテロワールを生かした個性的なモルトウイスキーを醸造しています。
この章では、私が飲んで美味しいと思ったお勧めの蒸留/醸造所を紹介いたします。
(1) アイラ島 (Islay)
アイラ島
アイラ島に咲くヒースの花(別名ヘザー)
アイラ島は、スコットランドの西部にある淡路島の1/4ほどの小さな島です。しかし、海沿いに9つもの醸造所があり、「スコッチの聖地」と言われています。
アイラモルトの特徴は、何と言ってもスモーキーな香りの独特なピート臭です。ここで何故、モルトウイスキーにこのようなスモーキーなピート臭が付くかを説明します。ピート(泥炭)はヒース(アイラではヘザーと言う。)という植物が炭化したもので、スコットランドでは古くから燃料として使われていました。モルトウイスキーの製造過程で、原料である大麦麦芽を乾燥させる必要があり、その燃料にピートを使って麦芽を燻煙する事により、スモーキーな独特のピート臭が付くのです。但し、総てのスコッチにピート臭があるのでは無く、フルーティー香りを生かす為に敢えて燃料にピートを使わず、全くピートの香りが付かないようにしている蒸留所も多くあります。アイラ島の1/4はピート(泥炭)に覆われており、更にピートには海藻も含まれている為によりヨード臭が強く、アイラモルトにはほのかな潮の香りが感じられるのも特徴です。
個人的にはアイラモルトが大好きなウイスキーであり、実際に飲んで美味しかった銘柄の蒸留所をこれから紹介致します。
① ラフロイグ (LAPHROIG)
ラフロイグは、私がシングルモルトを飲むきっかけとなったウイスキーで個人的にもすごく愛着のある蒸留所ですが、「アイラモルトの王」とさえ呼ばれる世界で最も愛されているアイラモルトでもあります。1994年には、シングルモルトウイスキーで初めて英国王室ご用達となりました。
特徴としては、アイラ独特のヨード臭のあるピートの香りに加えて、バニラのような甘さにクリームのような滑らかさもある、ドライで深遠な味わいのある事です。その強烈な個性から、昔から「惚れこむか、大嫌いになるかのどちらか」と評されてきました。お勧めの銘柄は、王道である「ラフロイグ18年」でしょう。ここでウイスキーの熟成年数について説明すると、一般的に販売されている熟成年数は18年物と12年物が多いです。6年ほどの違いですが、通常、18年物は12年物の倍以上の販売価格となっています。実際に飲み比べるとわかりますが、明らかに18年物の方が「まろやかさ」や「ほのかな甘み」が感じられます。また、特に「シェリーカスク」等のような樽からの移り香を楽しみたい場合は、断然に18年物の方がお勧めです。
「ラフロイグ18年」
② アードベック(Ardbeg)
アードベックは、1815年創業の古典的かつ伝統的な蒸留所です。1980年代に一度閉鎖になりましたが、1997年にグレンモーレンジ社が買収し再開しました。
アイラモルトの中で最も強くピート炊き込んでいる蒸留所であり、何と言っても特徴はラフロイグ以上に強烈なピート香と繊細な甘さです。従って、最もピーティーな「究極のアイラモルト」とも言われています。
現在のシングルモルトウイスキーの主流は、実はピート臭の全く無いスペイサイドモルトのようなフルーティーな甘い風味の飲みやすいウイスキーとなっていますが、アイラモルトは頑なにスコッチの伝統を守っているウイスキーなのです。
「アードベック コリーヴレッカン」
■ワールドウィスキーアワード2010
(WWA)
ワールドベスト・シングルモルト受賞
③ ボウモア (BOWMORE)
ボウモアは1779年創業と、アイラで最古、スコットランドでも二番目に古い蒸留所です。特徴は、アイラ独特のピート香はやや控えめで、レモンと蜂蜜のフルーティーな味わいとダークチョコレートを思わせるコクを感じさせる味わいとなっています。このようなエレガントな風味を持っていることから、「アイラモルトの女王」と言われています。
そういう事から、アイラモルトとしては非常に飲みやすいウイスキーと言えます。
BOWMORE18年シェリーカスク
④ ラガヴーリン (LAGAVULIN)
ラガヴーリンは1816年創業の古い蒸留所であり、ホワイトホース社のキーモルトとして使用される事で有名です。特徴は、強めのピート香とシェリー樽熟成特有の甘い香りの両方を併せ持つ事です。代表的な銘柄はラガヴーリン16年ですが、原酒不足から終売になる噂があります。
LAGAVULIN 16年
⑤ カリラ (CAOLILA)
カリラは1846年創業のやや古い蒸留所であり、ジョニーウォーカーのキーモルトに使用されることもあって、アイラ島で最大の生産量となっています。特徴は、アイラ独特のピート香もあるのですが、フルーティーな香りも強く感じられ、非常にバランスが良く、個人的にはラフロイグの次に好きなウイスキーです。代表的な銘柄は「カリラ12年」ですが、より「まろやかさ」のある「カリラ25年」が私のお勧めです。
CAOL ILA 25年
⑥ ブルイックラディ (BRUICHLADDICH)
ブルイックラディは1881年に創業となりましたが、1994年に一度閉鎖となり、2001年に復活した蒸留所です。1つの蒸留所で複数の個性の違うウイスキーを生産しているのが特徴です。
「ブルイックラディ ザ・クラシック・ラディ」は、ピート香は控えめにしてエレガントで華やかな味わいに仕上げています。ボトルは鮮やかなライト・ブルーの金属缶で、とても美しいです。
ブルイックラディ ザ・クラシック・ラディ
「オクトモア 12.1 スコティッシュ・バーレイ」は、逆にアイラモルトで最も強いピート香を持つウイスキーに仕上げており、アイラ独特のピート香がお好きな人は、一度飲んでみる事をお勧めします。(しかし、かなり強烈ですよ!)
オクトモア 12.1 スコティッシュ・バーレイ
⑦ ブナハーブン (Bunnahabhain)
ブナハーブンは1881年創業で、アイラ島の蒸留所としては若い部類に入ります。しかも、当初はブレンディッドの原酒のみを生産しており、シングルモルトの販売開始は1979年ですから最近です。製法としてはピートの影響を全く受けないようにする為に、勿論ピートも焚かず、更にアイラ島北西の川の上流部の水を地下パイプで引いて使用しています。(アイラ島の1/4は泥炭(ピート)で覆われている為、この地層を通ってピートの影響を受けた水を使用すると、ピートを焚いていなくてもピート香がしてしまうからです。)従って、ブナハーブンのウイスキーは、アイラモルトとしては珍しくピート香が全く無いのが最大の特徴です。また、60~80時間に及ぶ大麦の長時間発酵を行っているので、蒸溜後のアルコール度数は70%前後で、アイラウイスキーの中でも高い度数です。味わいは、ピート香が無いので飲みやすい軽い口当たりで、ほのかな潮の香りとレモンのような風味が感じられます。
⑧ キルホーマン (KILCHOMAN)
キルホーマンは2005年に設立され、アイラ島に124年ぶりに誕生した新しい蒸留所です。特徴は、アイラ島で唯一、大麦栽培・製麦・糖化・発酵・蒸溜・熟成・瓶詰というウイスキー造りにおける全工程を自社で行える「100%アイラ産」という事にあります。大麦栽培まで自社で行う「ファーム・ディスティラリー(農業型蒸溜所)」なんて、すごいですね。それだけ、こだわりを持ったウイスキー造りをしているのです。
味わいは、アイラ独特のピート香のスモーキーさに、バタークリームの香り、その後に続くシトラスやレモンのようなフルーティ&フローラルさが特徴です。
キルホーマン マキヤーベイ
⑨ ポートエレン (PORT ELLEN)
ポートエレンは1825年に創業した、歴史の長い蒸留所でした。しかし、1983年に世界的なウイスキー人気の低迷期に突入したことを受けて完全閉鎖となり、残念ながら、以後約40年に亘って新たなウイスキーは造られていません。現在でも市場で流通している銘柄は、最低でも40年前には蒸留されていたことになり、残っている原酒から少しずつボトリングされて販売されていた為、出荷本数は極めて少なく、希少価値の高さから「幻のウイスキー」と呼ばれています。
潮の香りやスモーキーさはそのままに、軽いオイリーさも感じられる味わいで、奥底に眠る甘味が後を引く余韻は絶品と言えます。実は私もポートエレンはボトルで飲んだ事は無く、バーで2回ほどショットグラスを飲んだだけですが、今まで飲んだシングルモルトウイスキーの中のベスト5の1つであると思います。嬉しいニュースとしては、最近、ポートエレン蒸留所は復活しました。しかし、熟成年数を考えると新しいポートエレンが販売されるのは20~30年後になりますので、それまで生きているかは微妙ですね!
ポートエレン 22年
その他のアイラ島の蒸留所として、2018年にアードナッホー蒸留所が設立されましたが、まだシングルモルトウイスキーは販売されてなく、今後のお楽しみです。
(2) ハイランド地方(Highland)
スコットランドの北側に位置するハイランド地方はとても広く、45も蒸留所があり、全スコットランド蒸留所の約1/3の数になります。特徴としては、基本的にはウイスキーらしいまろやかな甘みを持ったものが多いとされますが、あまりにも広い地域である為、それぞれの銘柄によってまちまちの味わいとなっています。ここでは、幾つかの代表的な蒸留所を紹介します。
① クライヌリッシュ(Clynelish)
北ハイランドに位置し、元々は1819年に創業された古い蒸留所ですが、その後、様々な変遷があって、1967年に現在の蒸留所が建設されました。「ジョニーウォーカー」のキーモルトである事で有名ですが、この蒸留所の95%はジョニーウォーカーに使用されており、残りの5%だけがクライヌリッシュのシングルモルトとして販売されています。
味わいとしては、唯一無二と言われる独特の舌触りに、ハチミツやトロピカルフルーツのような香味が特徴とされています。
② プルトニー(PULTENEY)
プルトニーは1826年創業の古い蒸留所で、スコットランドの北部、北海に面した漁港にあり、「海のモルト」と言われています。潮風を感じさせる、きつめの塩辛さが特徴ですが、同時にオイリーで優しく滑らかな風味もあり、複雑な味わいとなっています。個人的にはハイランドモルトはあまり飲まないのですが、オールドプルトニーだけはお気に入りの銘柄です。
③ グレンモーレンジ(GLENMORANGIE)
グレンモーレンジは1843年創業の蒸留所で、スコットランドで最も売れているスングルモルトウイスキーを生産しています。グレンモーレンジは「樽の魔術師」と言われ、厳選された様々な樽を使用したデザイナーズカスクが生産されています。従って、華やかでフルーティーな香りが特徴で、柑橘を中心としたフレッシュさとバニラの香りが複雑さを演出しています。私は基本的にはハイボールは飲まない事にしていますが、グレンモーレンジにはレモンの代わりにオレンジを入れたハイボールがお勧めです。
④ スペイサイド(SPEYSIDE)
ハイランド地方にあるのですが、何故か「スペイサイド」と言う紛らわしい名前の蒸留所で、1990年創業とかなり新しいです。実は最近、ボトリングメーカーであるサマローリ社の「spey」というウイスキーを、スペイサイドのブレンデッドウイスキーと思って間違えて購入したのですが、フルーティーですっきりした味わいで意外と美味しかったです。
⑤ ロイヤルロッホナガー(Royal Lochnagar)
ロイヤルロッホナガーは、1845年創業の非常に小規模な蒸留所です。当初からヴィクトリア女王とアルバート公の後援を受けており、ロイヤルの名前が付いているように英国王室ご用達の数少ない蒸留所です。元々、少ない生産量に加えて95%はブレンデッドウイスキーに使用される事から、シングルモルトはかなり希少です。味わいはノンピートでフルーティーな香りが特徴で、甘みがありながら、オイリーでスパイシーです。
飲み方としてはストレートがお勧めですが、お湯で割ったホットウイスキーも美味しいです。お湯で割ることで果実の甘みが増し、独特のオイリーさも強調されて癒されます。
⑥ エドラダワー(Edradour)
エドラダワーは、1837年創業の小規模・少量生産の農場蒸留所です。スコットランドの平均的蒸留所の1/40の生産量で、昔ながらの設備で手造りにこだわった醸造を行っています。なめらかでクリーミーな口当たりと、フルーティーでハチミツのような甘味が特徴で、濃厚でナッティな味わいも感じられます。
⑦ オーバン
オーバンは蒸留所がほとんどない西ハイランドで製造されるウイスキーであり、海に面した町で製造されていることからスモーキーで磯の香りがする塩辛い味わいが特徴になります。創業は1794年と古く、長い歴史を持つ蒸留所です。
香りはフルーティーかつスモーキーな香りに渋みや苦みのある香味が感じられ、口いっぱいに甘さが広がり、燻製麦芽の独特の味わいがあります。
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