Tomy jr.

                  
 暇と退屈の倫理学
 國分功一郎・著/新潮文庫・2022年

《総評》

 久し振りにとても面白い本を読んだ。哲学書なのだが、哲学の素養が無い読者にも寄り添って論理を進めてくれるので、とても分かり易く共感できた。パスカル(1623-1662)、ルソー(1712-1778)、ヘーゲル(1770-1831)、マルクス(1818-1883)、ニーチェ(1844-1900)、ラッセル(1872-1970)、ハイデッガー(1889-1976)など著名な哲学者や思想家の理論を参照しながら彼等が導いた結論に必ずしも納得せずに読者と共に考察を進めていく姿勢は心地良い。「暇」と「退屈」の関係、「消費」「浪費」「贅沢」の関係、「本来」論と「運命」論など、我々の日常の事物を例にとり乍ら人間の本質に迫る哲学的アプローチは実に痛快である。「哲学とは問題を発見し、それに対応するための概念を作り出す営みである」と著者が述べる通り、読者一人一人が自分と向き合い、自分で考えるという姿勢で読めば必ず哲学を体験させてくれるという点で徹頭徹尾一貫している書であり読者自身の結論を導き出せる。

《出版刊行歴》

2011年初版、2015年に太田出版から増補新版刊行、2022年文庫化、2023年2月15刷。

《構成と内容》

増補新版のためのまえがき、まえがき、
序章「好きなこと」とは何か
第1章 暇と退屈の原理論―ウサギ狩りに行く人は本当は何が欲しいのか?
第2章 暇と退屈の系譜学―人間はいつから退屈しているのか?
第3章 暇と退屈の経済史―なぜ“ひまじん”が尊敬されてきたのか?
第4章 暇と退屈の疎外論―贅沢とは何か?
第5章 暇と退屈の哲学―そもそも退屈とは何か?
第6章 暇と退屈の人間学―トカゲの世界をのぞく事は可能か?
第7章 暇と退屈の倫理学―決断することは人間の証しか?
結論、あとがき、注、付録 傷と運命、文庫版あとがき、全508頁

《著者プロフィール》

 國分功一郎(こくぶん・こういちろう)1974(昭和49)年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。東京大学大学院総合文化研究科教授。専攻は哲学。2017年に「中動態の世代」で小林秀雄賞を受賞。

《読書の経緯》

 ネット広告代理店を辞めてプータローをしている25歳の次男が奥渋の雑貨&書店で購入。サラリーマンを引退して“サンデー毎日”の私が、タイトルに惹かれて借りて読んだもの。

《所感》

 パスカルの「人間の不幸は部屋にじっとしていられないために起きる」という分析やハイデッガーの「人間は退屈だという内なる声を聞くことに耐えられない」という分析は確かに共感できるが、前者の「信仰せよ」、後者の「決断せよ」という結論には著者と同じく納得できない。著者が述べるように読者が自分と向き合って考えたことが結論であるなら、私の答えは「自らの資質と能力をフルに発揮し続けて人生を楽しむ事」だろう。(2023.8.24)