スタンダードな日常から①

                  Tomy jr.

 夏が来れば思い出すのは?


 皆さん、お久し振りです。
以前、「デザイナーのいない風景」というシリーズ連載をしていたTomy jr.です。
先日、うさおさんと感動の再会を果たし、再び寄稿させていただく事になりました。
寄稿再開の第1回目となる今回は「夏が来れば思い出すのは?」です。

 ♪夏が来れば思い出す~♪、と来れば、♪~はるかな尾瀬、遠い空♪、じゃありませんか?
 これは1949(昭和24)年に作られた「夏の思い出」(江間章子:作詞、中田喜直:作曲)という曲で、当初はNHKラジオで放送され、その後は中学校の合唱曲として歌ったり聴いたりして、日本人なら誰もが知っている歌だと思います。

            尾瀬ヶ原の湿原と至仏山
              【世界の民謡・童謡webサイトより】

 日本では、誰もが知っている楽曲をよく「スタンダード・ナンバー」などと称しますが、これは和製英語らしくて「ナンバー」に「楽曲」という意味は無いそうで、「jazz standards」とか、単に「standard(スタンダード)」と呼ぶそうです。上記の合唱曲などは、さしずめ「日本のスタンダード」あるいは「唱歌のスタンダード」と呼ぶべき楽曲でしょうね。

 世界的視野に立てば洋楽または映画になるでしょうか?「夏が来れば思い出す」をテーマにした映画はそれこそ世界中に溢れていますが、私が個人的にまず思い浮かぶ映画は、美しい人妻に惹かれる思春期の少年のひと夏の経験を描いた「思い出の夏 (原題Summer of '42)」(1971年)とその美しいテーマ曲(ミシェル・ルグラン:作曲)です。

 そして私がDVDまで持っている大好きな「アメリカン・グラフィティ」(1973年)!この映画全体が「夏の一夜の思い出」ですが、映画の中で使われている煌めくオールディーズ楽曲の中からは「See You In September」(1959年)と「All Summer Long」(1964年)を挙げておきましょう。これらの曲も映画音楽およびポップスのスタンダードと言えるでしょう。

            

 映画音楽から洋楽の世界に眼を移すと「夏の思い出」に関する楽曲はさらにいっぱいありますしjazz standardsに限っても同様です。その中で私がどうしても採り上げたいのは「These Foolish Things」という曲で「思い出のたね」という邦題が付いています。実はこの曲は夏とは関係なく「何を見ても貴方を思い出してしまう」という恋の(未練の)歌です。

 「Foolish Things」を「他愛もない事柄」と訳せば、タイトルの「These Foolish Things (Remind Me of You)」を直訳すると「それらの他愛もない事柄が私に貴方を思い出させる」となります。1935年にホルト・マーベル:作詞、ジャック・ストレイチー:作曲で発表された同曲の原詞は専門サイトを見て戴くとして、私なりに和訳してみるとこんな感じです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
口紅の痕がついたタバコの吸い殻
ロマンチックな土地への航空チケット
まだ私の心には翼があるみたい
こうした他愛もない事柄が、貴方を思い出させる

隣のアパートから漏れ聴こえるピアノの音
貴方に気持ちを伝えようとした私のたどたどしい言葉
広場にあるペンキで塗られたブランコ
こうした他愛もない事柄が、貴方を思い出させる

貴方が出現し、私を見つけ、そして貴方は私を虜にした
私は何故か、きっとそうなるような気がしていた

春の風は私の心をダンサーにする
電話のベルは鳴るけれど誰が出るのだろう?
ああ、貴方の面影を振り払うことが出来ない
こうした他愛もない事柄が、貴方を思い出させるから
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 私達の日常は、こうした「Foolish Things (他愛もない事柄)」で溢れています。他の人にとっては何でもない事柄が、ある人にとっては何か大事なヒト、モノ、コトに結び付いているかも知れません。スタンダード (standard=標準、基準等)は、ありきたりな事柄ですが、「jazz standards」には、時に非日常的ともいえる機知が隠されていたりします。

 次回以降も「スタンダードな日常から」非日常的な事柄をご紹介していきます。(2023.7.26)