電氣顧問 三十三號   燈火管制號うさお

 今回は戦時下における灯火管制について、昭和13年の資料を用いて検証してみたいと思います。ここに一冊の本があります。「電氣顧問三十三號」という本です。この本は「東京電燈株式会社」が発刊したものです。當時をイメージして用語はなるべく旧字にしますね。

 東京電燈株式会社とは、前號で紹介した通りです。この本は父が大切に残していたものです。若き日の仕事の思い出だったのかな。ノスタルジックを感じるなあ。



 この本は戦時下における燈火管制について書かれています。空襲による爆弾や焼夷弾の目標になることを避けるために、上空からは発見しやすい電燈の光を極力見えないようにさせる技術について、二人の陸軍工兵少佐が語っています。
 空襲の脅威について述べていますが、昭和13年8月25日の話です。だとすると敵国が米国では無い筈です。少し昭和13年の社会情勢について考えてみます。



 目次ではこう言っています。
「是からの戰争は空襲に始まり、空襲に終ると言はれて居ります。ですから吾々國民は宣戰布告の前から絶えず敵の空襲を覚悟しなければなりません。
 空襲!!爆弾、焼夷弾、瓦斯弾等々想起するだに戰慄を感ぜさせられます。之等の空襲に対して國土を護ることは、吾々銃後の國民各自の義務であり、責務であると信じます。扨て防空の第一義は何んと言つても完全なる燈火の管制にあることは論を俟たない處です。
 各人、各戸が銘々に燈りを護つてこそ、都市を護り、國土を安泰にすることを得るのです。世は多端な秋です。此の際是非管制の意義を究めて、完全な燈火管制の實を擧けられんことを希望致します。」


 瓦斯彈まで想定しているとは驚きですが、登戸や座間に毒瓦斯の研究所や工廠があったことを想えばあながち噓でもなさそうです。生物兵器は研究していた割に爆撃として使うことは想定していなかったようです。
 さて多少長い年表を示しますが、その当時の世相を知るために少し我慢をお願いします。でも、たった一年間の出来事なんですが波乱万丈ですよ。

 年月日  起きた事件、事柄
1938/01/06  精神学者ジークムント・フロイトがロンドンに亡命しました。タツオトさんの得意分野。
1938/01/15   中国戦線に笑いの慰問団「わらわし隊」の一行が門司港を出港しました。吉本興行の柳家金語楼や花菱アチャコ、横山エンタツ達です。中国戦線?はて、何かきな臭い事態のようです。
1938/01/16   第1次近衛内閣は、対中国への和平交渉の打ち切りを通告しました。ますます、きな臭いな。
1938/02/04   ドイツ国防軍が改組され、ヒトラーが統帥権をもちます。あっ、この時代の話なのか、外的要因が危なそうな時代だぞ。
1938/02/26   満州皇帝の姪の愛新覚羅慧生が誕生しました。満州皇帝とは愛新覚羅溥儀のことで、清国のラストエンペラーでその後、関東軍が建国した大満洲帝国の皇帝になりました。
1938/03/13  ヒトラーがウィーンに行き、オーストリアをドイツに併合することを宣言しました。あれっ、これって今のロシアがウクライナに宣言していることと同じように見えるな。
1938/03/15   ソ連の元中央委員のニコライ・ブハーリン(50)、アレクセイ・ルイコフ(57)らが死刑判決を受け、即日処刑されました。粛清ですね、粛清。
1938/03/16   フランコ派のイタリア空軍がスペインのバルセロナを爆撃した。 
1938/03/16   衆議院で社会大衆党の西尾末広が、「ヒトラーの如く、スターリンの如く大胆に」と近衛首相を激励し、問題となった。全体主義が進んできた感じです。
1938/03/28  日本占領下の南京に中華民国維新政府が樹立される。
1938/04/01   「国家総動員法」が公布される。何だか、どんどん全体主義が進んできますね。
1938/05/01  重要産業統制令改正が実施され、自動車のガソリンが切符制になり、「ガソリン1滴は血の1滴」と言われる。現在の日本も似てきています。
1938/05/19   日本軍が徐州を占領した
1938/07/15   閣議で第12回オリンピック東京大会の中止を決定した。これはまぼろしのオリンピックと呼ばれたあれです。昭和12年7月7日の盧溝橋事件が勃発し、日本と中国の戦争が長期化する見通しが強まりました。ロシア・ウクライナの戦争とよく似ています。
1938/07/16   世界初の核実験(プルトニウム型)がニューメキシコで行われた。
1938/09/12   ヒトラーがナチス党大会でチェコ領ズデーテン地方の合併を要求しました。うわー、ますます、ロシアじゃん。
1938/09/30   イギリス、フランス、ドイツ、イタリアがミュンヘン協定で、ズデーテン地方をドイツに割譲することに同意しました。これは欧州が屈したことになりますね。ウクライナの4州をロシア領にすると宣言したときに欧州が黙っていたことと通じるのかなあ。
1938/10/03   ドイツがズデーテン地方を併合した。あ~あ。
1938/10/27   日本軍が武漢三鎮を占領した。今、話題の武漢です。また、米国がコロナの発生地だと中国を刺激しています。
1938/11/02   ハンガリーが、チェコ領カルパートとウクライナを占領する。ポーランドがチェコ内のポーランド民族地帯を占領する。わ~あ、この当時のチェコはさんざんやね。
1938/11/03   第2次近衛内閣が日本の戦争目的は東亜新秩序にあると宣言した。これはプーチンがネオ・ナチからロシア国民を守ると言ったのとよく似ています。
1938/11/09  ナチスがユダヤ人を弾圧しました。(水晶の夜事件 Kristallnacht )。
※これは1938年11月9~10日の夜にドイツ全土のユダヤ人を襲った迫害(ポグロム)のことで、11月7日にパリのドイツ大使館の書記官ラートがユダヤ系ポーランド人の少年に暗殺されたことから、宣伝相ゲッベルスは報復を呼びかけポグロムを組織した。ほとんどのシナゴーグ(ユダヤ教会堂)が焼討ちにあい、7500のユダヤ人商店が破壊された。街路がガラスの破片で覆われて輝いていたので、「水晶の夜」とよばれました。ヒトラーはユダヤ人に贖罪金10億マルクを課すとともにさまざまの規制を強め、大規模な国外追放を始めました。(吉田輝夫記)
https://kotobank.jp/word/%E6%B0%B4%E6%99%B6%E3%81%AE%E5%A4%9C-169475
1938/11/26   ソ連・ポーランド不可侵条約が締結される。
1938/12/24   ペルーで行われたパン・アメリカ会議で、南北アメリカへの侵略行為に対して参加21ヵ国が協議し、リマ宣言が採択される。
           ※太字赤字が日本に関係する軍事行動



 中表紙は爆撃機のような、それにしては小振りな機体が写っています。爆撃機と言えば今話題の「B-1B爆撃機」のような大型機を想像しますが、写真は離島のコミューター機程度の大きさしかありません。


B-1B爆撃機

 中表紙の機体は九六式陸上攻撃機だと思われます。大日本帝国海軍の陸上攻撃機です。海軍の命名法によって急降下爆撃ができない爆撃機は攻撃機とされました。昭和11年6月2日に実戦配備されています。つまり昭和13年では花形の爆撃機だったのでしょう。双翼の尾翼が特徴的です。


九六式陸上攻撃機21型

 当時としては航続距離が長く、台湾や九州の基地から発進し、東シナ海を越えて上海事変の現地部隊を支援する爆撃を行い帰還したとされています。機体の上部には半球体の機銃座が設けられている程度の防衛力です。



 つまり、昭和13年は第二次世界大戦の前夜で、日本は満州国、南京、徐州、武漢三鎮を制圧しましたが、やがて中国が制空権を取り返し、日本の首都を攻撃するのではないかと軍部は思います。首都の防衛をするために空襲に対する心構えを国民に知らしめ、東京電燈株式会社も燈火管制の特集記事をまとめたのでした。自分たちが空爆して多大な戦果を挙げその被害に驚き、空襲されたら堪らんという想いなのかな。

 「住宅の燈火の管制は最も容易なもので、これ位のことが容全に出来ない様では、銃後の国民としての資格はありません。
 室外の電燈は消す。宝内の電燈は直射光を外へ漏らさない。根本原則は只これだけです。そこに遣り方の上手、下手の差こそあれ、方法は至って簡単なものです。上手とは勿論規定の範囲内で、光を有効に明るく使ふことです。
 其處で各戸、各人が、突然の管制施行にも問誤付かないやう、子供部屋は如何にする、居間は、臺所は、便所は如何にする、其の用具は何を用ふか等々、主婦と言はず、女中と言はず誰でもが、銘々に判る様になって居てこそ、立派な管制が行はれるのであります。扨て其の管制の方法は?」


 婦女子に対する偏見、思い込みがあり、現在では到底受け入れられない文言が並んでいます。

「住宅の管制」にある間取り図です。どうやらこの挿絵師はこの図を基に生活圏を描いているようでです。

玄関:2畳
前室:2畳
客間:10畳 床の間付き
広縁:5畳程度か テーブル、椅子が置いてありそう
居間:8畳
台所:3畳
湯殿:3畳
書斎:4畳半
厠 :1畳

計38畳半(127平米)程度の家ですが、当時として普通の広さだったのかは分かりません。今なら広い方と思います。敷地が狭いので2階も利用しますね。










 燈火管制の基本は、窓や出入り口はカーテン等で遮蔽し光が漏洩しないようにする、作業する處だけピンスポットで光を当てるように、電燈に黒いカバーを着ける。街路灯の場合は燭力?を下げる、電燈の向きを下に向けるなどです。


 このお母さんが良い味出しています。
 便利灯とはタスク・ライトのようなものでしょう。右の説明では「灯」を「燈」と書いています。この当時の略字が今の当用漢字になった好い例かも知れない。






















 当時の空爆は目視で行われたので、光を遮ることが有効な手段だったんでしょうね。今みたいに衛星から位置を特定して、ミサイルが誘導されるなら幾ら光を遮断しても攻撃されちゃうね。





警戒体制甲、乙って何でしょうね。甲は軍がするのかな?防空壕とかベノト壕のことかな。そちらの方が興味津々だなあ。



 上の図の事務所(2)は、ビルの中庭をアトリウムにして、光庭の天窓を隠蔽するのですが、この時代にもうアトリウムがあったことが驚きです。



 多少、指示の仕方が微に入り細に入りなので、マニュアルとして盲目的に行う人が多かったんだろうな。だから本編では臨機応変に対応して、火事など起こさないでねと再三説明しているよ。火事になったら大きな目標になっちゃうものね。













上の文献を再掲してみます。

商店街に於ける燈火管制に就て
東部防衛司令部 陸軍工兵少佐 小川市歳氏

燈火管制は難しくない


 燈火管制は決して難しいものではありませんが、どうも十分御理解がない爲に、電気器具製造業者や、防護團の班長さんを五年位やった方でも、妙な誤解があって、間違った物を作ったり、間違った指導や要求が相當に多くあるので、一般の人々が誤るのも無理はな
いと考へられる點もあります。折角研究して正しくやつて居られると、「消せ消せ」と言ふて來ると、消して仕舞ふやうな状態でありまして、一般には、燈火管制は何か、分つたやうで分って居らぬ。各種各様な廣い範囲内のことは、指導或は監督する人々が知らねばならぬことで、全部を理解することは困難であつても、自分の家庭とか、店とかと言ふ狭い範囲での燈火管制は、極く簡單容易なことで決して難解でも難事でもなく、一寸眞面目にやる気さへあれば直に出來ますが、二晩三晩だからと云つて、お茶を濁して過したのでは何年やつても出来ません。どうか正しく理解し正確に實施して戴くことをお願ひいたします。
 今日は燈火の管制の中で各家庭、特に商店並に商店街を中心とした所の燈火管制に就て、お話を申上げるのでありますが、全般の概念と云ふものをはっきりとして置いて戴きたいのであります。


燈火管制とは

 一體、燈火管制とは何か?其の根本は燈火を消すことだ。暗くすることだ、或は覆をすることだと言って居りますが、防空法の第八條に於ても又燈火管制規則に於きましても『光を秘匿する』、是は第一の事實でありますから、何處までも燈火管制は、是が基礎になって行くのであります。遮光覆をかけろとか、燈火を小さくしろと言はれるが、そんなことはうるさいから、窓へ新聞紙を貼つちやつたら、それが一番艮かった。是は燈火管制の特例だらうと思ふ。此の方法も良いと思ふから之を認めて呉れと言ふ人がありました。認める所ぢやないそれが燈火管制の総ての目的です。一番それが良いのだと言ったやうなことなんかありますけれども、是はある時には出来るけれども、ある時には出来ない。叉、出來る場所と出來ぬ場所とがある。例へば店先を開け放しにして商ひをする所で、すっかり閉めてしまったら、餘程其處の店を狙って來た人ならば入るが、通りがゝりの人は入って來ない。それぢや困る。或はすっかり閉めてしまふと、盛夏の七、八月の候に、家の中で汗だら〈では、是でも困る。だから、さう云ふ最も状況が惡い場合に於ても尚且警戒管制と云ふものが、或る程度出來るやうにして置かなければならぬ。さう云ふ意味からやるのには、遮光法、減光法がございます。
 空襲管制になりますと、敵の飛行機が既に來ると云ふことがはっきりした場合だから、斯うなりますと、さつきも申上げた通り、商賣も何もありませぬのでありますから、極く必要な最小限度の燈火を残して消してしまふ。場合に依ったならば統一管制(發電所叉は變電所でスイッチを切る)をやらなければならぬ場合もあるのであります。
 そこで、隠すとは一體何處へ対して何を隠すかと云へば、當然飛行機に対して光を隠すのでありますが、其の隠し方に二つの考へ方があります。
 一つは、遠くにやって來た飛行機に対して、東京はどっちの方であるかと云ふことを隠す。是が即ち警戒管制であります。愈〃近付いて来た飛行機に對して、東京の確な位置叉は銀座が何處か、澁谷が何處かと云ふことをはっきり見せない。是が所謂空襲管制であります。
 飛行機を距離的に考へましても全然目的が違ひますから、燈火管制の方法が違ふのでありますが、主なるものは警戒管制と空襲管制の二つでありまして、屋外燈類中の一部のみを警戒管制の程度に管制する方法もありますが、之は随時に地方長官が種類と期間を定めて命じます。


燈火管制の方法

 然らば警戒管制とはどんなものかと申しますと、甲の方法と乙の方法と二種ありまして、一般の地方では乙の方法を實施し、特に地方長官より示された或る地方が甲の方法を實施いたしますが、以下述べます警戒管制は乙の方法と承知して頂きたい。
 一般屋外燈類は、生活及保安上、直接必要度の低いものは消燈し保安叉は作業上必要のものは減光して遮光いたします。一般屋内燈 は戸締面の外部にあるものは、店先燈として消燈し、内部のものは 隠蔽するか或は減光して且つ遮光するか、叉は許可を得て弱い光を 漏光さす程度にするかの方法があります。即ち隠蔽するか減光して 強い光を外に出さないやうにするかでありますが、空襲管制は消すか隠蔽するかの二つの方法しかありません。之等を要約して申上ますと『警戒管制は強い光を屋外に漏してはならぬが、空襲管制は一切の光を外に漏してはならぬ』極く簡單でありますから、これだけのことを基礎として、燈火管制のやり方をお考へになって戴けばよいのであります。
 燈火管制の實施は地方長官の指定する期間、或は警戒警報叉は空襲警報の發令されて、解除になる迄實施いたしますが、晝間は其の必要がないので夕の日の入り時刻から、朝の日の出時刻まで實施します。随って晝夜引き續き同一警報下にある場合は、其の時刻に開始し或は中止するのであります。然しながら一般の家庭では、まだ 日の入り時刻五分前だから點燈したけれども、管制しないで置かうでなく、夕刻點燈する場合は直に管制状態に入り、日の出時刻を過ぎて消燈する時に管制を解く。之が常識的な考へ方でありまして、規則の日の入り、日の出時刻と燈火點滅時刻とは、概ね一致さして圓滑を行はれるべきでありますが、商ひ場に於ては天候の明暗等に依りて、毎日の日の入り時刻を調べて、其の前から點燈してゐた燈火を時刻通りに管制する必要もあります。


外屋燈の管制は

 之から之等燈火管制に就て詳細に申上ます。商店街の夜の燈火は営業上からは無くてはならないものでありますが、其の要度は總てが同一でないので、屋外燈類中でも廣告、看板、装飾燈類其他屋上燈、庭園燈類及門軒燈類は、警戒管制及空襲管制共に消燈であります。而し街路燈類は保安父通維持上警戒管制乙の方法では、街路面一〇〇平方米に付一.五燭光以下の割合で、一六燭光以下の燈火を光源の下端より遮光具の下端に引いた線が、光線の下方に向ひ且つ水平面と二〇度以上の角をなすを條件として、交通の要點其他に残置し、夜の商店街を幾分でも賑はすことが出来ます。
 以上の管制方法に依るためには、現在繁華街で多く使用されてゐる街路燈は、六〇、一〇〇、二〇〇ワット電球でありますから、之を二〇ワツト以下に減光することが必要であります。次は下向であることが必要でありますが、現在の街路燈の多くは上向でありますから、其下方に特に附加設置を必要とするものがあります。之は右の圖の如く下向に修正するか、吊下燈とせねばなりません。之等残置燈には空襲警報の發令と同時に消燈し得る設備が必要であります。このやうに上向の街路燈は燈火管制上の不便がありますので将来設置せられるものは、装飾と實用と防空の三つを考へて合理的な便利な下向にせられたいと思ひます。残置燈を路幅に従って間隔を定めるとすれば次の表の通りであります。
(略)
 門軒燈を街路燈の代用として残置する場合も、右と同様にして残置するのであります。演習の際に於ける街路残置燈は甚だ少く、其の原因は上向が多いため設備の欒更が面倒臭いからだと思ひますが長期に亘る警戒管制を考へますと、平素から逐次準備されたいと思ひます。叉街路残置燈に防空電球が使用されますが、あれは街路照明の目的上からは不利であります。其の理由は従來の防空電球は光束の開角が小さくて直下路面上に小さい丸い明るさを投げるに過ぎません。規則通りの遮光を行ひますと、高さの約五倍以内の廣さの路面照明が得られますから、通りが明るくなります。甲の方法に依る街路残置燈は、消燈が本則でありまして、迅速に消燈し得る處置を施して許可を受くれば、街路面の最大照度〇・一五ルクス以下に減光して、且つ乙の方法と同じ要領に遮光いたします。
 其の他標識燈類、屋外作業燈類は各種制限下に残しますが、露店燈は一店一燈八燭光以下として、街路燈と同様に遮光して残置、営業することになってゐます。店先燈類は店先装飾燈、店先吊下燈、店先陣列箱燈其他之等に類似の燈火でありまして之等は消燈いたします。

ショーウインドウの管制

 商店の表の生命の如く考へられてゐるショーウインドウ内は、普通屋内燈として認められますから、規定に許された範囲内で生かして使ふ工夫が必要であります。此のウィンドウ内の照明法には二つの手段が考へられます。今假りに間口一間奥行三尺のショーウインドウとすれば、約一.五平方米ですから五燭光の電球をウインドウの上方に點けて直射光が外に出ないやうに外方を遮光して内部を照すやうにするか、ショーウインドゥの外側硝子面より一.八米(一間)以上の内側に、五燭光以下の一燈を點けて直射光が水平以上に向はないやうに遮光して、ショーウインドウの内側も硝子として、内部よりシヨーウインドウ内を照明するからであります。

普通屋内燈の管制は

 普通屋内燈類は隠蔽するか、或は減光且遮光かの方法に依ります。隠蔽法は簡單であります。商店街としては商業の種類と性質に依っては、減光遮光しては困るものもあって、内部は平常の夜と同様の光の下で営業せねばならぬものもありまして、之等は隠蔽するの外ありませんが、反射に隠蔽しては店の特性を破壊するが故に間口は開放して、減光遮光に據らねばならぬものも多くありますから之に就いて申上ます。
 室の廣さ三平方米(約一坪)に付き一○燭光以下の割合で一燈は五〇燭光以下として光源よりの直射光が開口部から外に出ないやうにするのが一つの方法でありまして、此の要求範圍内に於て工夫さへすれば、店内の照明は営業に差支ない各種の方法があります。
 第二の方法として、室の廣さ三平方米に付一燭光以内で一燈五燭光以下とし、開口部より一.八米以上の内側に光源がある場合は直射光が開口部の外側に於て水平以上に向はない場合は直射光が外に出てもよいのでありまして、此の方法は商店では入口附近が暗くて具合が悪い時に於て利用されるとよい。
 叉店の構造や照明方式の関係上より、前の二方法に據れない場合は、地方長官の許可を得れば一平方米に付三ルーメン(照度三ルクス)以下の漏光は差支ないことになつてゐます。以上の如く庭内燈の燈火管制乙の方法には、隠蔽と、減光且つ遮光する方法が二つと、許可を得て漏光する方法が一つと四種類あります。甲の方法は隠蔽と減光且遮光する方法と二つであります。隠蔽は乙の方法と同様でありますが、減光遮光の方法は乙とは程度が巌でありまして、三平方米(約一坪)について〇・五燭光以下の割合で、一燈二燭光以下になって居ります。之等を室の廣さと減光の範圍を一表にしてみると次のやうであります。

 それから、窓の陽除けをずつと出してあつて、其の下にあるのは、敷居から外にあつても室内燈と認めて呉れと云ふこともありますが、矢張り依然として、是は店先燈所謂戸締面の外にある燈火として考へるより外に方法はないのであります。


賣場の電燈は

次は、一番問題になる賣場の燈火であります。之をどうするか。
是は建前から申しますと、普通燈火として、屋内燈と同様でございます。併し普通の住宅等の室内燈と違ひまして、非常に高燭光の球を點けて居られる。燈火管制規則では、屋内燈は一坪に付き一〇燭光最大の電球の五〇燭光までとなって居ります。普通の店では、一坪に付て、八〇燭光乃至一〇〇燭光點けて居られる。之等を燈火管制規則通りやる爲には、一坪に付て八〇燭光のものを一〇燭光まで滅さなければならぬ。茲に商賣をする上の苦痛があるのであります。
 其處で、どう云ふやうにして減光するかと云ふことになれば、五つ點いて居るのは三つ消して二つ残こす。二つ残したけれども、矢張り一○○ワツトの球が粘いて居る。是ではいけないから六〇ワツトの球に代へる。或は八坪位しかなかったならば、六〇ワット二つは點かないから四〇ワツト二つ點けるか、或は六〇ワツト一つの代りに三○ワツト二つ點けると云ふやうに電球の数を先づ減じて減光する。次に電球の燭光数を減じて減光して電球の数は維持する。其の減光したものに更に所謂遮光即ち光を遮ぎる。此の三つの各段を踏まないと、警戒管制の設備が出来ません。高層建築物等に於きまして、あれだけの強い電燈に封して遮光はしてあるけれども、減光はしてないのがありますが之れでは管制は半ばしか出来てゐません。

 次に、遮光するにはどうするか。是は御承知の通り一坪に付一〇燭光以内一燈五〇燭光以下の時に窓或は出入口の所から直射光線が外に出なければ宜い。叉一坪に對し一燭光以下で五燭光以下の光源で窓或は出入口から一間以上離れてゐて水平以上に直射光が出なければよいのであります。其の外、建物の構造等に依って、自然に遮蔽されたる物或は隠蔽されたる物は其の處置を要しないと云ふことがはっきり書いてあります。


 これと全く同じ防空方法を大東亜戦争の時にもしています。10年経っても進化がありませんね。













 余計なことですが、本文中では尚と猶と言う文字が混在しています。両方とも「なお」と読むのだろうと思います。同じ人が書いているのですから、何か使い分けをしているのでしょう。辞書を引いてみましたが、接続詞と副詞があり、尚は猶とも書くということで更に困惑の極みであります。

 この章も再掲してみます。

工場の燈火管制に就て 陸軍省認可済 陸軍築城本部陸軍工兵少佐 木原 友二氏

 御承知の通り今回の事變が始まりまして以來、海軍の飛行機は中支に南支に、叉陸軍の飛行機は北支に中支に大いに活躍してをります。その爲に敵空軍は多大の損害を受けまして、目下の虞日本領土を空襲し得ない状態でありますが、戰爭が長引けばその間に空軍を再建し、何時空襲して來るかも知れないのであります。其點を考ふる時、目支事變の續く限り私共は常に備を固くして置かねばなりません。何時空襲警報が出ましても差支へのないやうに總ての方面に防空準備をやって頂きたいのであります。

   都市の照明状態はどう見えるか

 東京市の如き大都市の暈光は、通常の天候ならば約一〇〇粁、條件の良い場合ならば二〇〇粁のところから見えると云はれて居ります。
 富士山叉は高崎市が東京市から約一〇〇粁、東海道の濱松及北陸の直江津が約二〇〇粁であります。天気晴朗の場合は敵飛行機が西ならば濱松、北ならば直江津に到着した時既に東京の暈光を認める事が出来るのであります。以上は遠い所から見た時の状況であります。
 東京、川崎、横濱の大都市は勿論の事人口一千或は一萬数千と云ふやうな小都市でも、上空から見ました平常の照明状態は非常に綺麗なものであります。都市の照明に依りまして市域を判定することも出来ます。叉主要街路、目貫きの場所も明瞭に認める事が出來ますから、それ等の場所を規準としまして、爆撃目標位置の見當をつけることも頗る容易であります。そうなりますと月明の晩を選んで來襲する必要もありません。暗夜でも又少し位雨が降ってをつてもやって來られる譯であります。こゝに光を秘匿するといふ必要が起って来るのであります。
 要するに燈火管制は、敵飛行場に飛行目標、爆撃目標の發見を困難にする爲に實施するのであります。


    防空法中燈火管制に関係ある條項に就て

 防空法をお讀みになった方は誰でも気付かれたと思ひますが、燈火管制の事は明確に書いてあります。先づ第八條に燈火管制の實施に関する事が出てをります。
 「燈火管制ヲ實施スル場合二於テハ命令ノ定ムル所ニ依リソノ實施區域内ニ於ケル光ヲ發スル設備又ハ装置ノ管理者又ハ之ニ準ズベキ者ハ他ノ法令ノ規定ニ拘ラズ其ノ光ヲ秘匿スベシ」
 斯くの如く他の規定を無視して燈火管制をやるといふ事を強調してをります。それほどこの燈火管制は重要硯されてをるのであります。叉これが訓練につきましても別に條項を設けてあります。
 即ち第十條第三項に「第一項ノ規定ニヨリ燈火管制ノ訓練ヲナス場合ニ於テハ命令ノ定ムル所ニヨリ訓練區域内ニ於ケル光ヲ發スル設備叉ハ装置ノ管理者叉ハ之ニ準ズベキ者ハ他ノ法令ノ規定ニ拘ラズ其ノ光ヲ秘匿スベシ』と規定して居ります。
 第十九條第一項に「第八條ノ規定ニ違反シタル者ハ三百圓以下ノ罰金、拘留又ハ科料ニ處ス」と出てをりまして.防空法に規定してをります處の罰則中最も厳重なものであります。其他防空法施行令及官廰防空法中にも燈火管制に関する條項がありますが省略いたしま
す。

  管制程度による燈火管制の区分に就て

 御承知の通り空襲管制と警戒管制とがあり、警戒管制は甲、乙の二つに其程度が區分されて居ります。空襲管制は御承知のやうに上空に対して一切の光を秘匿して爆撃の目標を與へないといふ目的でやるのであります。
 従って一切の燈火は隠蔽するか、消燈(消光〕しなければなりません。
 警戒管制甲は、特別の燈火以外は大體高度數百米以上の飛行機に對して光を秘匿する様に其の程度が規定せられて居ります。
 警戒管制甲は、不意に空襲を受ける地域即ち海岸地方に主として實施せられます。空襲管制が間に合はなくても低空飛行して來る敵機に地上燈火を認められない様にと云ふ考へから以上の様に規定せられて居ります。數百米と云ふ限度は敵の飛行機がそれ迄位降りて來るかも知れないと云ふ判断から出た数字であります。
 警戒管制乙は、遠距離よりの要地發見を困難ならしめる様に其程度が規定せられて居ります。即ち直江津或ひは高崎上客に来た飛行機に東京市、横濱市、川崎市を見附けちれない様にと云ふ考へであります。従って都市の屋外にある光の量を出来る丈減少し、尚裸火を上空に對して隠すと云ふ考への下に規定せられて居ります。
 屋外の光量を減ずる爲に、屋外燈は其大部分を消燈し、單に必要最少眼のもの丈が残置し得る様に規定せられて居ります。叉屋内燈も或程度減光する様に規定せられて居ります。尚裸火は御承知の様に随分遠距離から見えるものでありますから、總て上空に對して遮光する様に決められて居ります。
 猶警戒管制乙の程度決定に際して最も考慮せられて居ります事は、生産運輸の繼続、治安の維持等であります。
 警戒管制は敵の飛行機が来るかも知れないと云ふ時機に實施するのでありまして、敵機來るの情報が東京に入り空襲警報が發令せられそれによつて燈火管制を貿施して充分間に合ふ地域なら乙で燈火管制をやればよいのであります。

 しかし乍ら、日本の様に四周海で取り囲まれて居ります處では、海岸に敵機が到着する迄は發見する事が困難であります。随つて海岸地方では空襲警報に依つて空襲管制を實施しても大體に於て間に合ひません。此の様な地方に於ては警戒管制甲を實施しまして空襲管制が
 間に合はなくても大なる支障が無い様に致します。勿論海岸地方でも、其時の戦況によりましては警戒管制乙を實施する事も將來はあり得る譯であります。之等の甲、乙の運用に付きましては陸海軍に於いて決定するのであります。私共がよく聞かされる問題は、空襲管制
 下に於ても、月夜ならば地上が良く見えるじやないかと云ふ事であります。勿論よく見えます。私の経験によりますと、幾ら完全に空襲管制が實施せられて居りましても、海岸、道路、家屋等は明確に認むる事が出來ます。併し明確に認め得る範囲は極く狭く、殆んど飛行機の直下及其附近に限られるのであります。そして叉月の位置に依りまして見える範囲が限定せられます。随つて燈火の在るのと無いのとでは目標發見上非常な差異があります。
 過去の演習でも空襲管制が實施せられて居る時、月明の晩であったにも拘らず航路を間違へて目的地に到着する事が出來ず、燈火管制を解除して漸く飛行場に歸還せしめたと云ふ例が数回ありました。月明の時.海岸線に沿ふて飛ぶ事は樂でありますが、陸上を飛行する事
は可成り困難であります。私も某地の、防空演習の際.燈火管制視察の爲飛行致しましたが、非常に燈火管制が良く實施せられて居りましたのと、目標となる河川、海岸線を認め得なかった爲遂に目標を一箇所も發見せず歸還したと云ふ経験を持って居ります。此の時も満月の晩であつたのであります。斯くの如く月夜でしかも飛び慣れた者ですら失策をやって居るのでありますから、何も知らない初めての土地は、假令月があつても地上燈火が無いと地図との対照がむづかしいと云ふ事が云へるのであります。

     工場の燈火管制と生産の繼續

 原則として、燈火管制下に於いて生産能率の低下を防止すると云ふ事が、絶対的に必要であります。
 その爲にはどうすればよろしいか。生産を繼續する事が必ずしも生産能率低下を防止する所以ではありません。結局、澤山生産すればいゝと云ふ事になって來るのであります。殊に軍需工業に於きましては比の事が特に必要であります。そこで生産能率低下の防止と一般作業の繼續との関係に就て充分考へて頂き度いのであります。
 私共が朝から晩迄本を讀んでをる方が能率が上るか、叉適當な時間には休み、やる時には一生懸命やると云ふ方が能率が上るかと云ふと、それは後の方が能率が上るのであります。 そう云ふ風に常識的に考へて防空計書を立てゝ頂きたいのであります。
 具體的に申上げますと、作業の繼續を絶體的に必要とするもの、即ち作業の性質上、作業の中絶が出来ない製作所、化學工業と云ふ風なものは空襲管制中と雖も作業を申絶する事が出來ません。随つて此等の工場は空襲管制下にあつても作業が繼續出來る様に完全に燈火管制施設をしておく事が必要であります。
 軍事上其他の要求によりまして空襲管制中と雖も作業を繼續しまして、十分の一でも百分の一でもいゝ生産能率を上げたいと云ふ風な工場も充分な隠蔽設備をして置く事が肝要であります。
 併し普通の工場に於きましては警戒管制下に於て充分生産能率を擧げる事を本旨として燈火管制の施設をする事が必要であります。
警戒管制は長期間繼續せられる性質のものでありますから、此間に生産能率の低下を來すが如き燈火管制施設をする事は、全體として生産量の低下を來す原因となるのであります。併し空襲管制は通常短時間實施せられる性質のものでありますから、一時作業の中止を行つても大した支障のない工場、或は終夜作業をしない様な工場では、空襲警報を聞くと同時に仕事を中止させて、空襲に對し安全な位置に待機せしめ、不要燈火は全部消燈する方が通常であります。
 爆弾の炸裂する音が聞える時精密な作業は恐らく不可能と思はれます。先程も申上げました様に作業を一時中止しても大した支障の無い工場は空襲警報間、場合に依りましては工場の上空附近に敵機が居る間作業を綺麗にやめて、全員防護の態勢に移る事が通常であります。この方が工場施設及工場従業員の防護の點からも、燈火管制施設の點からも、實際的であり、叉経済的であると思ふのであります。
 工場の作業の種類其他の情況を考慮する時は、必ずしも空襲管制下に於ける作業繼續を必要としない工場に於て、隠蔽設備の爲多大の経費を使用せられる方が多々ありますが、若しその様な餘裕がありますならば、是非防火、防毒、避難、救護等、工場施設竝従業員の防護方面に其経費を振り向けて頂き度いのであります。
 以上は警戒管制乙を賀施する場合に就いて申上げたのでありますが、警戒管制甲を實施する所では簡單な設備を以って警戒管制下の作業を繼續する事は困難であります。是非充分な設備をする事が必要であります。従って多大の経費を必要としますが作戦上の要求で何とも致し方がありません。


     工場の燈火管制施設の具體的方法に就て

 燈火管制材料としましては、取扱ひが容易であり、價格が安く尚耐久性のある事が絶對的に必要であります。尚屋外で使用するものは、耐水性を有する事が必要であります。要するに實用的の材料を選んで頂き度いのであります。
 御承知の様に、燈火管制方法は規則にも明示してあります様に、消燈(消光)、隠蔽、減光、遮光、漏光制限等の種類があります。之等の方法に就いて簡單に申上げます。
 減光-減光は電球を低燭光のものにさしかへるか、一部消燈するより方法が無いのであります。抵抗を入れまして電壓を落として光量を減ずると云ふ手段もありますが、特別の場合しか利用する事が出來ません。
 遮光-遮光は大抵、黒布、黒い紙、其他厚紙等で作って使用して居られますが、家庭、商店等ではこの方法でも差支ありません。
 併し乍ら工場に於ては先程も申上げました様に生産能率低下と云ふむづかしい問題が関係して参りますから燈火管制規定の範囲内に於てなるべく明るい照明を得る様に遮光方法に就ても考慮する事が必要であります。
 たとへば金属製反射笠を使ふ事によって遮光の條件を満足し、尚有効な照明を得る事が出来ます。此の方法で設備する時は平時に於ても充分利用する事が出来ると思はれます。
 尚屋外燈の遮光に黒布或はブリキ製の遮光具を使用して居られるのを見受けますが、之等は雨に濡れたり或は風に吹き飛ばされる虞がありますから是非共金属反射笠を使用する事が必要であります。
 平時二〇〇ワツト以上用の金属反射笠を使用し管制時二〇ワツトの電球に取かへると規定の遮光條件を満足し、且有効な照明を得る事が出来ます。
 隠蔽-隠蔽材料としては従来黒布、ルーフイソグペーパー、ボール紙、黒帆布等が盛に使用せられて居ります。之等のものは隠蔽材料として適當なものであります。併し更に一歩考へを進めまして、燈火管制のみならず、防火及弾片破片爆風等に對する防護を考慮する時は、鐵製のシヤツターを使用する事も一案であります。シヤツターは一見贅澤な隠蔽材料でありますが、工場施設竝に従業員の防護と云ふ事を考へると必ずしも贅澤品とは云へないのであります。もし工場を新設される場合には之等の點についても御配慮される必要があります。次にガラス張りの屋根の隠蔽について二三申上げます。
 警戒管制の時のみ作業を實施し空襲管制の時には作業を中止する所では隠蔽の必要はありません。若し空襲管制中も作業を繼續する場合には是非隠蔽しなければなりません。此の場合の隠薇装置は容易に開閉出来る構造のものでなければなりません。昨年の防空演習の際、芝浦製作所では、ガラスの内面に白色塗料を、外面に黒色塗料を施して内部の反射をよくし、外部は遮蔽の目的を達する様にせられました。確に有効な一方法と存じます。
 尚隠蔽の際に特に注意を要する事は工場内部の通風であります。
 濕氣叉は温度上昇により影響を受ける製品を造る工場或は高熱を發する工場では隠蔽設備の際、特に換気の點に注意しなければなりません。目下東京電氣株式會社に於て換気が可能で且殆んど光を通さない鎧戸式隠蔽材料に就て研究中でありますが、通風の點に於て尚研究を要するとの事であります。將來研究が進めば更に立派なものが出来る事と存じて居ります。
 消燈-消燈の方法は頗る簡單でありますが、併し防空の目的に合する様に消燈する爲には尚研究を要するものが多々あります。小人數を以て廣い構内の電燈を迅速、容易に消燈する爲には配電線の整理が必要であります。即ち警戒管制時に消燈する配電線、空襲管制時に消燈する配電線、及び空襲管制時に残置する燈火竝に電力、電熱に対する配電線の三種類に整理区分し、一箇所に於て操作し得る様にして置く事が必要であります。此の整理は工場の新設、增設叉は修理の際に心掛けて實施すれば大なる経費を使用する事なく實行出来ます。何故迅速に消燈を必要とするかについて實例により申上げませう。数年前迄の爆撃機は時速二〇〇粁程度のものでありましたが、現在では三百数十粁に增加して居ります。今時速三六〇粁と假定する時、一分間に六粁飛ぶ事になります。九十九里濱から東京迄は約六〇粁でありますから此の飛行機ならば約一〇分間で飛んで参ります。然るに九十九里濱で飛行機を見付けて後、皆様が空襲警報を聞かれる迄には数分間を要しますから、其の間に飛行機は東京から二、三〇粁の地點に來て居ります。此時ぐずぐず消燈して居つたのでは到底間に合はないのであります。従って工場の様に澤山の燈火を消燈せられる處では、先程申上ました様に配電線を整理して置く事が必要であります。
 漏光制限-此の方法は只外部に對する漏光の程度を決めただけでありまして減光、遮光、隠蔽等何れの方法に依るも差支ないのであります。
 此の方法が設けられました理由は簡單な設備で充分管制の目的を達し尚且必要な照明を與へ通風換気を良好にして作業能率、事務能率の低下を防止し様としたのにあります。
 漏光制限は管制方法としては非常に融通性があり理論的ではありますが、光束測定が容易でありませんので取締が困難であります。
此等の理由から特に許可制になって居ります。
 漏光制限の方法としては左記の通り各種の方法が考へられますが工場の照明設備の状況、作業の種類、工場建物の構造に依り適當な方法を選定せねばなりません。

 減光遮光に依る方法

 或種の工場は全般照明を消燈すれば大體漏光制限範囲内になるものがあります。叉減光することなく遮光装置を施すだけで目的を達することもあります。
 此の減光遮光に依る方法は通風換気が良好で作業能率低下の防止には適當であります。


 隠蔽装置を利用する方法

 隠蔽方法を採用して居る場合最も困ることは換気の點であります。
此の様な時に次圖の様にすれば漏光制限範囲内で換気を良好にすることが出来ます。
(図は略)

 不完全な隠蔽材料を利用する方法

室内を平常通り照明して居つても窓面等の漏光程度を規定の制限値以下となる様にするには比較的簡單な材料で目的を達することが出来まして隠蔽よりも僅少の軽費で済ませることが出來ます。
 要するに漏光制限には一定の方法が無いのでありますから實状に順應する様に創意工夫することが必要であります。


   工場の預備発電設備に就て

 此の車柄は燈火管制とは直接の関係はありませんが防空上是非考慮しなければならない事柄の一つであります。
 製鐵所、化學工場、石油工場等の如きものは、停電に依る被害が甚大である事は皆様御承知の通りであります。若し空襲に依り發電所、迭電線、配電線等が破壊せられた時を考へますと是非共豫備發電設備を設ける事が必要であります。其の他大規模の工場でも空襲被害を局限する意味から是非共將來は豫備發電設備を設けねばなりません。
 逓信省に於ては従来自家發電設備を制限する方針で進んで居られましたが最近は防塞上の必要から大分制限を緩和する方針になられたと云ふ事を聞いて、私共は非常に結構な事と喜んで居る次第であります。


   工場の燈火管制方針に就て

 具體的に一二の例を申上げ度いと思ひます。

 機械作業及び組立作業工場

 
大體之等の工場は全般照明と局部照明とを併用して居られますが警戒管制乙の場合には、全般照明を消燈し、局部照明のみにて作業する時は大體支障なく作業が出來るものと思はれます。其時の能率低下は僅少なものであります空襲管制になったならば作業を中止して消燈する方が実際的であります。之等の工場に於ては、空襲警報が出たならば如何にして迅速に作業を中止し、速に従業員を防護の位置に就かしめ且消燈するかについて充分な計畫を立て訓練をして置く事が必要であります。
 警戒管制甲を實施する所では規定通りの減光遮光の方法では作業が不可能であります。是非共隠蔽の設備をしなければなりません。
此の際夏期等に於ては換気不良の爲作業能率が一〇%或は二〇%低下する事は止むを得ない事と存じます。


 鋳物工場及製造爐

 昭和八年の関東防空演習の際川口市の鋳物工場の火焔の燈火管制が相當問題になったのでありますが、昭和九年の近畿防空演習の時簡單に問題が片附きました。御承知の様に鋳物工場の大部分は朝から型を造り始め、午後鋳物を流し込むのでありますが、此の型を造る事を早朝から始めて薄暮の時期までに鋳物を流し込む作業を終る様にすれば何等大なる設備を要する事なく完全に燈火管制の目的を達することが出来るのであります。此の方法は少なくとも、開戰當初燈火管制設備のない時に利用する事が出来ます。開戰後作業が繁忙になった時徐ろに完全な隠蔽設備をして夜間作業を実施すれば良いのでありまして、平時から多大の経費をかけて準備する必要は更にないのであります。鎔鑛爐、瓦斯製造爐、電気爐等高熱を發生ししかも明るい火焔を出す所では換気が良好で且全々火を漏らさない隠蔽設備をする事が是非必要であります。之等の工場は開戰と同時に隠蔽設備を全般的に設ける事は到底出来ないのでありますから、平時から逐次設備竝に資材を整備して置く事が肝要であります。

 紡績工場

 紡織方面の事は良く存じませんが之等の工場に就ては、先程申上げました機械作業をやる工場と同様警戒管制乙を實施する場所では、隠蔽を施す事なく局部照明により作業を實施し、管制になれば作業を中止して従業員を防護の態勢に移す方が適當であります。
 此際ガラス屋根から反射光等が漏れる事は規定上差支ないのでありますから、空襲管制時消燈する限りガラス屋根の隠蔽は不必要であります。
 警戒管制甲を實施する所では勿論隠蔽設備をやって置く事が必要であります。


 化學工場

 化學工場は大體に於て色々の悪瓦斯を發生するのが常であります。叉一時作業を中止する事の困難な所であります。従ひまして此處の燈火管制に就ては餘程の研究を必要と致します。
作業の爲あまり充分な光を必要とせず、叉悪瓦斯の發生の少い所では、警戒管制乙の際は隠蔽する事なく減光、遮光に依り、空襲管制になった時は隠蔽すればよろしい。此の際は換気に就て特別の注意を必要上しないでしやう。
併し悪瓦斯を盛に發生する様な處では隠蔽の際充分な換気が出來る様に考慮して置く事が必要であります。
 要するに工場の燈火管制は其の作業の種類に應じて適當に創意工夫を凝らし終局に於て燈火管制の目的を達成し且生産量の低下を防止する様にしなければなりません。

     工場と空襲被害

  燈火管制とは関係は御座いませんが、こゝに一言申上て置き度い事は工場は如何なる爆弾で空襲されるかと云ふ問題であります。工場地帯の空襲に焼夷弾、ガス弾を使用する事もありませうが、破壊用爆樺を落される事も考慮しなければなりません。何故ならば普通の工場でも焼夷弾による被害は我國都市の一般の住宅商店に比べまして頗る僅少のものと思はれます。
 一方破壊用爆弾でも可燃性材料がある限り、充分火災を起しめる事が出来ます。従って工場施設を破壊し、且可燃性材料に點火し得る破壊用爆弾が相當多量に使用せられる事は、想像に難くないのであります。
  毒瓦斯弾は場合に依っては使用せられる事もありませう。併し大戰中にも、叉スペイン革命戰に於ても、瓦斯弾は使はれて居りません。餘程敵が亂暴でない限り開戰當初から毒瓦斯弾を使ふ事はなからうと思ひます。併し無防禦の所に毒瓦斯弾を受けた場合には、大戰中の結果から見ましても其の被害は相當恐ろしいものでありますから、各工場共防毒に對して決して無関心であってはなりません。
 充分なる準備を整へて置く事が必要であります。破壊用爆弾が落された場合には工場設備竝に従業員が同時にやられるのでありますから、之に對しましては工場として最も考慮する等が必要であります。
 此の爆弾に封して完全に防ぐと云ふ事は經費の點から到底許されない事であります。従って破片弾片及爆風に對して工場設備、従業員を保護すると云ふ方針の下に考慮しなければなりません。
  特に水道、瓦斯、電気の諸施設は工場全般に関係するものでありますから、特に其の防護竝に被害の局限について研究し設備をして置かなければなりません。此の破壊用爆弾に對する対策に就いては各工場共殆んど配慮しておられないのが實情であります。是非將來
 共皆様の御研究御準備を御願ひする次第であります。〔文責任記者〕


 一度書き起こしを始めてしまったので、最後までやり遂げるなくてはと思い致しましたが、本文を載せているのでこの作業は必要なかったことに気が付きました。無駄な作業だったなあ。



 この絵は明るさの目安を描いています。石炭の例として「風呂桶」が出ています。
 子供の時から大人になるまで、この木製風呂に入っていました。石炭炉の上に煙突があり、それを囲むように「上がり湯」の区切りがありました。石炭の煤がこの上がり湯に浮いていることがあり、消毒液の石炭酸の匂いがしていました。これが嫌で冷たい水道水で顔を洗った記憶があります。



 さてここで述べたい事柄はこれ!
 汽車は600m位前方の燈火にようやく気付き、見逃すとブレーキを踏んでも停止できないよという記述があります。これは令和の時代でもこの数値が使われており、線路上で事故を起こした場合は、発煙筒を回しながら600mほど全力疾走して電車に停止の合図を送らなければなりません。今はブレーキの性能が上がりましたが、列車の速度も上がりました。時速120㎞の走行では600mの制動距離が必要なんだそうです。

 鉄道の工事管理者の資格を得たときにそう教えられましたが、さて、600m全力で走れるかが問題でした。100mも無理そうなのに。今もJRの鉄道会社では、この全力疾走の訓練を行っているようです。
 してはいけないことは、白色のものを振ってはいけません。赤色灯か赤色旗を振ることが義務つけられています。白や緑は安全だから運行してよいの印です。
 地下鉄は合図灯が頼りです。鉄道会社によりルールは異なりますが、合図灯は横に振ると停止、縦に振ると徐行、丸く振ると通過OKだとか決められています。会社ごとに手順が異なりますので間違えると大事故になります。



 この記述がとても面白い。
左記のこと御注意申上候
1)風呂敷で包まぬこと
2)電球をフスマにつけぬこと
3)電球サックを遮光具に使わぬこと
4)遮光具に電球を触れささぬこと
5)大きい電球のついてゐるスタンドを布で覆はぬこと
6)コードのところでカバーを結ばぬこと

 つまり、白熱電球だから熱に気を付けなさいという事を6回も言っています。右側の説明をすると誤解する人が多々いて、火災事故が発生した反省でしょうね。







 この防空用照明器具のお値段が、1.50とかです。単位は圓ですよね。確かに小学生の時に駄菓子屋に行くと大きい飴玉一つが50銭でした。銭という貨幣はさすがにありませんでしたが、一圓硬貨を握りしめてお店に行ったような気がします。


上から5銭、10銭、50銭 自宅にあった古銭







 一燈漏れて全市壊滅! この資料はとても興味がありました。