近頃、本屋に行くと猫に関係した書籍の多いことに驚きます。世間一般、猫を可愛がっている人が多いことを反映しているようです。
今回、図書館で肩が凝らずに読める本として借りたのが、猫が主人公の時代小説で、面白かったので紹介します。
表紙に擬人化した浮世絵風の猫の絵が描かれています。しかし、化け猫の話ではありません。超能力ものに分類されると思いますが、内容はライト・ミステリーです。
主人公は雄猫で、猫仲間では「ミスジ」と呼ばれています。この猫が、失踪した先代の後を継いで、江戸の猫町(本当は米町(よねちょう))の傀儡師に就任するところから始まります。傀儡師は、傀儡となる人間を操って猫社会の問題を解決する役目を担っています。異性と交わってはいけないという巫女のような厳しい掟があります。
ミスジの傀儡は阿次郎という暇人です。傀儡四箇条というのがあって、次の条件に当てはまる人間でないと傀儡に選ばれません。
壱、 まず暇であること。
弐、 察しと勘が良いこと。
参、 若い猫並みの数寄心(すきごころ)をもち合わせていること。
肆、何よりも猫がすきなこと。
阿次郎というのはおっとり長屋(本当はお酉長屋)にすむ24歳のさる大きな商家の次男坊ですが、勘当されていて、母親からの内緒の仕送りで生活しています。ふれこみは狂言作家ですが、誰も台本を書いているところは見たことがありません。けれども、傀儡四箇条に当てはまる人間で、ミスジとともに日常的で些細な猫の(実は人間の)問題を解決していく連作です。
問題解決にはいくつかの前提条件があります。
①傀儡師の猫は人の言葉を解するが、傀儡の人は猫の言葉が分からない
②猫は人の文字が読めない
③猫の目は人よりも視力が弱いが、犬ほどでないが臭いを嗅ぐ力は人に勝るなどです。
そこで、ミスジが勘や身体能力で事件の手掛かりを掴んで、阿次郎がそれを推察するように仕向け、最後に阿次郎の推理で事件を実証的に解決するという方法がとられます。でも、物語はそれで終わりとはならず、庶民的で人情的な解決がなされます。もちろん、猫にとっても都合の良い解決に落ち着きます。
こうして六つの小さな事件を解決しつつ、全体を支配する大きな謎も解決する体裁になっています。 大きな謎とは、ミスジの傀儡師の師匠にあたる順松(よりまつ)という、人間のような名前を持った猫の失踪です。ミスジは順松の失踪によって、「猫町の傀儡師」の後を継ぐことになるのです。
この小説は漱石の猫の流れになっていて、人間を茶化す精神が受け継がれています。
ミスジは漱石の猫同様、(人語を解することを除けば)特殊能力もなく腕力もなく博識でもないふつうの猫ですが、好奇心と行動力は他の猫よりもあるようです。阿次郎も同様の人間で、両者の相棒関係によって事件が解決される仕組みです。
この作家の作品は自分の好みに合っているので、よく読んでいますが、NHKのドラマになった「善人長屋」も面白い発想のストーリーです。
※肆とは数字四の代用字です。