3) 麻見和史考

 麻見和史を知ったのは、TVドラマ「未解決の女 警視庁文書捜査官」あたりからかな。
 今までの警察物がやたら正義感を振り回し、怒鳴ってばかりのものが多かったので、このようなほんわかとしたものも良いなと思ったのだ。
 そしてwowowの「石の繭」。本の方はあんまり警察ドラマっぽくない警察ドラマなのでとても読み易い。
 麻見和史氏は1965年に千葉県で生まれました。立教大学文学部日本文学科を卒業して、2006年に「ヴェサリウスの柩」を東京創元社から出版しています。同社主催の第16回鮎川哲也賞も受賞しています。
 どうせ、うさおが買って読んでいるのは文庫本になってからですが、並んでいる本のサブタイトルが違っていることに気が付きました。如月塔子シリーズの本なのですが、警視庁捜査一課十一係と警視庁殺人分析班になっています。これは警視庁捜査一課十一係が、講談社ノベルスで刊行されており、かたや警視庁殺人分析班は講談社文庫より刊行されています。お家の事情があるのでしょうが、同じ出版社なので、同じサブタイトルにして欲しいなあ。うさおのようなうっかり者は、違うシリーズだと思って2冊買っちゃうじゃありませんか。コホム。
 氏の著書を綴ってみると以下のような感じです。(Wikipedia参照、年月は初出を掲示)

警視庁捜査一課十一係・警視庁殺人分析班(講談社ノベルス 、 講談社文庫)
 石の繭      2011年05月
 蟻の階段     2011年10月
 水晶の鼓動    2012年05月
 虚空の糸     2013年04月
 聖者の凶数    2013年12月
 女神の骨格    2014年12月
 蝶の力学     2015年12月
 雨色の仔羊    2016年11月
 奈落の偶像    2017年07月
 鷹の砦      2017年12月
 凪の残響     2018年10月
 天空の鏡     2019年10月
 賢者の棘     2020年11月
 魔弾の標的    2022年12月

警視庁特捜7(新潮社)
 水葬の迷宮    2017年09月 原題:特捜7 銃弾
 死者の盟約    2019年04月 原題:死者の盟約 特捜7

重犯罪取材班・早乙女綾香(幻冬舎文庫)
 屑の刃      2014年10月
 沈黙する女たち  2017年10月

警視庁文書捜査官(角川文庫)
 警視庁文書捜査官 2015年01月
 永久囚人     2017年03月
 緋色のシグナル  2018年01月
 灰の轍      2018年11月
 影の斜塔     2019年04月
 愚者の檻     2019年11月
 銀翼の死角    2020年05月
 茨の墓標     2021年03月

警視庁公安分析班(講談社ノベルス 、 講談社文庫)
 邪神の天秤    2021年03月
 偽神の審判    2021年05月

単行本
ヴェサリウスの柩  2006年09月 東京創元社
真夜中のタランテラ 2008年09月 東京創元社
深紅の断片     2015年5月 講談社
共犯レクイエム   2016年12月 ハルキ文庫
骸の鍵       2018年08月 双葉社
擬態の殻      2019年02月 朝日文庫
無垢の傷痕     2021年06月 双葉文庫


 では、これらの作品を年代別に活動状況を見てみましょう。



 グラフの青色が作品の発刊数で、橙色がTV化された数です。グラフで見るとデビューした2006年から2010年まではあまり執筆の依頼数が無く、2013年あたりから2021年にかけて多くなっているのが判ります。多い時には年間5編も書いており、固定ファンが付いてきたのでしょう。TV化はそれ以外の大衆にも受け入れられたことを示します。ここ数年で人気が出てきたんですね。このグラフから見ると、これからもまだ伸びていきそうな作家さんです。

個別の感想

 さて、殺人分析班の如月塔子は、身長152.8センチと背が低く、警察官試験にどうやって受かったか本人も疑問なのだが、短躯、童顔で徐々に筋読みの能力を開発していきます。意外に彼女の性格はコメディタッチで、自分が周りから好意を持たれていることに気が付かないタイプです。少女漫画にありがちなタイプですね。TVでは木村文乃が演じていました。
 鷹野秀昭は塔子の指導課係りの警部補で、塔子には厳しいが科学捜査研究所の河上が塔子に好意を持って接していると嫉妬する態度を示します。可哀そうな河上は小説の中では下の名前も書かれていません。いくつか粗筋を示しておきます。

石の繭 
 如月塔子は、警視庁本部に勤務する新米の女刑事で、刑事だった父の遺志を継いで警察官になりました。捜査一課に配属され、初めての事件がモルタルで固められた男性の遺体の捜査で、捜査本部に犯人から電話がかかり、塔子が相手をすることになった。





水晶の鼓動 
 民家の玄関先で変死体が発見された。屋内は壁や床、家具に赤のスプレーが吹き付けられていた。この事件と別に政府広報センター、スターライトホテル、東都大学の3箇所で同日に連続爆破事件が起きる。






天空の鏡 
 解体中の商業施設で発見された殺人事件で、螺旋階段から突き落とされ、左の眼球が奪われていた。








 文書捜査官の鳴海理沙は、大学で文章心理学を専攻しており、警視庁捜査第一課科学捜査係文書解読班、通称「資料保管室」に配属された。捜査一課に戻りたい部下の矢代朋彦と、捜査資料の整理・分類をしている。年齢は30歳くらいで女優にしても良い顔立ちをしているが、文書を考察しているときには眉間にしわが寄っており、美人なのがもったいないと言われている。資格は警部補で班長を務めており、部下の巡査部長の矢代より三歳も年下である。文書解読班は、功績が認められ夏目静香巡査が新メンバーに加えられる。
 TV版では鳴海理沙を鈴木京香が扮しており、女性警官・矢代朋を波瑠が演じています。どちらかと言うと矢代朋が主役です。うさおの個人的な感想ですが、鳴海理沙を主役に据える方が良かったのではないかな。本の中ではポヨンとしたイメージでしたので、多部未華子さんあたりが適役じゃあなかろうか。おお、絵は似ていないねえ、どちらかと言うと森高千里さんに似てきちゃった。夏目巡査は女性陣が被るのかTVドラマには出てきていません。







 警視庁特捜7は特別捜査官の岬怜司は、事件が起きた所轄署の葛西署刑事課の里中宏美と組まされます。岬怜司が快刀乱麻の働きで、事件を解決するのかと思いきや、里中宏美の特殊能力のおかげで謎を解きます。本文を引用すると「二十代の後半だろうか。髪は天然パーマらしく、うねったり撥ねたりしている。大きな両目がきょろきょろとよく動く。背の高さは百五十五センチほどで、一見すると少年のような印象があった。それはいいとして、岬が気になったのは、彼女がどう見ても体に合わないパンツスーツを着ていることだった。紺色で一般的な形だが、サイズが大きくてだぶだぶなのだ。おまけに、何を入れているのか左右のポケットが大きく膨らんでいる。まるで一昔前の喜劇俳優のようだった。(中略)自分が里中を見て連想したのは、人間ではなかった。失礼な話だが、昔、実家で飼っていた犬のことを思い出したのだ。」彼女はバックやポケットの中から色々な道具を取り出し捜査に役立てます。作者の並々ならぬ思い入れが見て取れます。彼女は自称絵がうまいと言っていますが、子供の絵のようにデフォルメされており他の人は理解できません。また車の運転がとてもうまい。地理にも明るい。刑事に打って付けである。
 岬をライバル視するツンデレの同僚女性刑事佐倉響子は、いつか出世し、お気に入りの女性警官を集めて、「佐倉の園」作りたい野望を持っています。
 うさおもこのシリーズが大好きなのですが、残念ながらまだ二作しか発表されておらず、この後のシリーズを読みたいです。もしTV化するなら、里中巡査は正直不動産の福原遥で良いかな。