それ・・・ H.T
そこは 美しかった。
空は、紫に、不思議な透明感をたたえ、朱色の大地は、延々と、広がっている。太陽とおぼしきものの光は、はれんちぴんく。
そして、彼らがいた、無数の人間達…。彼らは、肌も目も口も、すべてベージュ色。彼らは、真裸で、髪というものも一本もなかった。そんな彼らの体が、朱色の大地の上に、延々と散らばる、それは、不秩序事体であり、まるで、永遠だった。
彼らは動いていた。彼らは、穴を掘っている様だった。ただ、黙々と。彼らが動くたびに、無数の小さな、朱色の土山が次第にできていく。そして、それらの上に、やさしくもつめたくもなく輝く太陽。
そう、彼らは人間ではないかも知れない。でも彼らの顔をはっきりみた時、〝私〟には、すぐわかった、彼らは、人間だと。
「私は、どこにいる、どこに?」
「何故、私はここにいる、こんな所に?」
「私は、何をしている? 何を?」
〝私〟には、何もわからなかった、本当に、何も…。ただ、そこは、美しかった。
〝私〟は、わけもなく歩きはじめた、大地の上を、彼らの間を。それは、まさに、つかれたように、だった。長いのか短かいのかわからない時間の中、〝私〟は歩き続けた。変化というものは、微塵もなく、どこまで行っても、全ては同じだった。
彼らは〝私〃に全く無感覚だった。彼らにとって〝私〃は、まるで存在していないようだった。彼らは、穴を掘る、ただ、朱色の士を掘り上げる。だんだん高くなる土の山。穴が探くなるにつれて、彼らの体は、どんどん大地にもぐっていく。
「行為が吸収されている」、〝私〟は、さっきから、そう感じ続けていた。それは、碓かな又、不確かな感覚だった。そして、〝私〟の歩みは、すでに止まっていた。〝私〟には、立っているのすら、かったるかった。
やがて、はれんちぴんくの太陽が、大地の果てに沈みかけてきた。無数の人聞達は、頭一つ地上に出して、穴の中で、立ったまま、眠り始めた。彼らのその顔は〝私〟に、ふと
アルカティックスマイルを思わせたが、全くの無表情にも見えた。大地の上に、延々と並ぶ、無数のベージュ色の頭と、同数の彼らが掘りだした朱色の土山。
太陽が沈んだ。あたりは、全くの闇と静寂だった。
そして、月が昇った、真黄色の月が。黄色の光のため、すべては、少し違った様相を程した。
彼らは 眠り続けていた。ひどく静かだった。
「私も眠る」、〝私〟が そう思ったのは 何故だろうか。とにかく〝私〟は 眠り始めた。
けれども その眠りは、すぐ中断されたのだった。〝私〟は 頬をこする砂によって目をさました。
砂嵐だった。激しい風が 昼間無数の人間達が掘り出した士くれを舞い上げていた。朱色の士くれが 集団となって 空中を 自由奔放に飛びまわっていた。
そして その土くれは 次第に人聞達の穴を埋めていった。
〝私〟は いつからか はとんど無意識だった。視覚のみが うつろに働く。砂嵐はどこまでも自由で奔放だった。朱色の砂嵐、その中で埋まりいく穴にただ眠る人間連。そして うつろな私。すべては ただ 存在していた。
朝だろうか? はれんちぴんくの光が、大地を覆う。朱色の地上には 頭だけ残して埋まってしまった人間達。そのベージュ色の頭が 延々と並んでいた。
彼らは動いていた、モゾモゾと。大地の中で体も動いているようだった。(モゾモゾ、モゾモゾ…) 彼らの表情は やはり同じだった、あの アルカティックスマイルとも全くの無表情ともつかない奴。
そして 〝私〟には無関係に いつの間にか 時が流れた。やがて 彼らのベージュ色の体が 次第に地上に表われてきた。はい出て来たのだった。ベージュ色の無数の人間連・・・。太陽が.空のやや中央まで昇っていた。
ただ 彼らをみつめる〝私〟。 〝私〟は もう 何も考えていなかった。
彼は 穴を掘り始めた、黙々と。それはもし昨日というものがあったのなら昨日と全く同じだった。
紫の空、朱色の大地、はれんちぴんくの太陽、ベージュ色の人間達…。そして・・・。まるで すべてが〝私〟に催眠作用を与えているようだった。
うすれいく自意識…。
「私は 何をしている?…」
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いつの間にか 〝私〟は 穴を掘っていた。〝私〟がかすかな意識の下でかいま見た自らの手はベージュ色だった
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太陽が 冷たくもやさしくもなく輝き続ける。そこは、美しかったのだろうか。(H・T)