ろうそく  波木井 弥恵子


 「ろうそく」でデビューの波木井嬢は、成城大の学生サンです。女性の少ない綾の鼓としては、強引に引きこもうという訳で、本人の許しも得ず、載せることにしました。これで入会しない訳にはいかないネ。(浦)

 私の任務はろうそくの番です。私は御主人様の言葉通りろうそくの火を保ち、命じられた数だけ消して歩くのです。私の仕事に対する報酬は金銭ではありません。私に金は必要ではないのですから。私への報酬は、仕事から得られるぞくっとする興著と快楽なのです。私は数えきれない程のろうそくの並んだうす暗い部屋を1日中歩きまわります。長いのも短かいのも様々あります。私はその日に御主人様に言われた教だけ私の任意のろうそくを消して歩くのです。昨日は八六四三本消しました。一昨日は七二九二本消しました。そして今日は九一二七本という命令です。私は一日中、部屋をくまなく歩き、九一二七本のろうそくを消すのです。息をふきかけたり、指先でしんをつまんだりして一本一本消します。炎がゆれて小さくなり、細く煙を登らせて消える時、異様な快感を覚えるのです。私は心を配り長いのと短かいのを公平に消さねばならないのです。しかし、私が消す前にもえつきていくのもあるのです。私が消したものは次に見まわる時にはもう新しいものと代っています。そしてさらに一〇〇、二〇〇とふえているのです。こんなに多くのろうそくがあっても、二〇、三〇年前のように手当りしだいに消すことを許されはしないのです。今は楽しむ程度に七千、八千という少ない教しか御主人様はご命じにはならないのです。私も年をとりましたから。


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