イラストのある小品  夢枕 獏

・・・おんなは

もういいのよ
 とおんなは言った
もういいの
死んだもののことについて語るのは
 おんなは茶色の微笑をうかべた
 眼から乾いた言葉があふれた
錆びたおなかからは何も生まれない
あるのは透明な陣痛とガラスの排泄物
 行く所はなかった
 帰る所もなかった
そうしてかんなは名前を失なった

ぼくらはめくらのようにさぐりあう




けれど
ぼくはもうそこにいやしない
盲いた青い山羊のように
きみの足音が
ぼくの内を通り過ぎていく






















戻る