唸り声

 地の底からわいてくる、暗い、低い、絶対権力者の唸り声。その響きは、大きく、また小さく続き、俺の神経をひきさいた。ちぎれた神経の束が口からとびだし、俺は目をさました。夢か、俺は思った。うつぶせになって煙草に火をつけ、最初の煙をはきだしたとき、俺は気づいた。唸り声は依然としてつづいていた。俺は愛用の木刀をひきつけ、煙草をもみ消した。
 それから、二、三分 寝床の中で息をこらしていたが、唸り声はやまなかった。俺は起き出して、家中を点検した。家の中にも、庭にも別にあやしいものはなかった。不思議だ、これは確かに不思議だ、俺は考えた。そのとき、ふとひらめくものがあって、俺は金庫の扉をあけた。
俺は一切を了解した。カネが唸っていた。


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