釣り  夢枕 獏

 「いやあ、いよいよ解禁ですなあ。私はこれだけが楽しみでしてねえ」
 「まったくまったく。何と言いますか、まあけっこうな道楽ですよ。ところでどうです、いっちょう競争といきますか」
 「いいですとも、これでも私は、昨年五万匹も釣りあげたこともありましてね」
 「ほう、そいつはすごい。やはりコツなんてのもありますかね」
 「ありますね。流れの下の方から上の方へさかのぼらせて、そう、ちょうどこんなふうに糸を移動させて行くんですよ」
 「なるほどなるほど。で、あなた、エサはやほりニクミをおつかいですか」
 「いえ、私はそれはやりません。もっぱらネタミとかアイをつかっています」
 「ほほう。アイですか、ネタミとは前から知っていましたが、アイとはね」
 「いや、このアイというのが以外とかかるんですな、特に若いのが・・・」
 「で、やはりアナ場はニジュッセイキのあたりですかな」
 「そうですね。やっぱりにごっている所の方がかかり安いんですよ、針がよく見えないから・・・。おや、あなた、引いてますよ。かかったらしいですね」
 「おや.そうですか」
 そう言って悪魔は、かかったばかりの人間の魂を、暗いピンの中に入れた。


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