流刑
時間を間違えた、ただそれだけの事だった。
「殺されるのかい?」
私は静かにきいた。
「いや、万事うまくいった」
彼は私の顔を見た。そして、気をとりなおしたように
「よかったな」
と言ってくれた。私の同僚であり、家族ぐるみの友人である彼、タキタの精一杯の好意である。
「どうするんだい」
私は再びきいた。
「まず、この部屋から人の住んでいた痕跡をなくして、それから一緒に出る、いいね」
私は黙ってうなずいた。
ドアを閉めた時、一瞬私は処刑前の死刑囚を思い浮かべていた。殺される、ありそうな事だ。<彼>なら、私に死の宣告をしたりはしない。黙って、何も知らないうちに死なせてくれるだろう。
タキタが私をタイム・マツーンに導いて乗り込んだ時も、私はことさら驚きはしなかった。<彼>なら考えつきそうな事だった。そしてもちろん私も何度も考えた。
「何世紀にしたんだ」
「八世紀」
「海なんだろ、もちろん」
「ああ、みんなが先に行って待ってる」
「子供は?」
私の心にかすかな痛みが走る。
「いや、子供には秘密は守れないからね」
私は黙る。
「何回も検討したんだ、君に見せてやりたくてね。でも、危険すぎるんだよ」
「いいよ、ありがとう」
タキタはマシーンの躯動を開始した。
八世紀の南太平洋の海上では、タキタの妻と研究所勤務をやめて、今はのん気に暮しているとなりのグリーン氏とその老婦人、私の研究室で助手をしているエド、研究所の資料係アビー、もう一人の親友ユアンの六人が私を待っていた。皆、私と親しくつきあってきた人々である。肉親を交じえていないのはありがたかった。だがそれも当然の事だ。これは<彼>の人選なのだから。一台のタイム・マシーンを空中に浮かべ 私は皆の待つ船に降り立った。小さな船で八人が立つともういっぱいである。
甲板上で一人夜空をながめながら 私は昼間の最後の洋上パーティを思い出していた。彼らの気持ちは痛い程よくわかった。エドは何とか私をふるい立たせようと頑張ったし、グリーン氏は自分の体験談を話す事で、私の役に立とうとし、ユアンは押し黙って一人あちこちを泳ぎ回り、最後に私の足を引っ張って、共に海の中で泣こうとした。そしてアビーは、一言、ごく控え目に、
「子供の事は引受けます」
と言った。
私はつくづく、妻が死んでいてよかったと思う。妻を<彼>にとられる事はどうにも我慢ならない。だが、アビーなら、私はアビーに自分の気持ちを打ち明けた事がなかった。アビーなら、まだ私のものではないのだから。
海は空の色を映す。
<彼>はまだ私の事を覚えていて、タキタやエドに私をたずねるよう、頼んでいるらしい。だが私はことわった。<彼>にはもう私がわからなくなっているのだ。あの流刑の日から、私と彼との間にズレができ始めた。愉快だった。ここに至って、私と<彼>とはやっと別な人間になったのだから。