彼女は・・・ J
「ねえ」
「・・・」
「ねえってば」
「・・・」
「んもう、聞いてるの?」
「聞こえてるよ」
「それじゃ、何とか言ってよ」
「何とか言えったって、俺は喋る機械じゃないぜ。そんな次から次へと話なんか出て来やしないさ」
「・・・つまんない」
「・・・」
「あたしね、このごろ考えるのよ。自分っていったい何だろうって。わかっていたつもりなのに急にわかんないあたしが出てきたり.あたしはひとりだと思っていたらそのあたしを見つめて、ブツブツ文句を言うもうひとりのあたしが現われたり。ひどい時にはその二人が取っ組み合いのけんかを始めちゃって、ただそれをオロオロとながめているもうひとりのあたしを見つけたりするのよ」
「分裂症じゃないのか」
「分んないいわ。でも、あたしそういう自分がとってもこわい。だから、ひとりっていやなの」
「そんなのは一時的なものさ、そのうち直るよ」
「・・・冷たいのね・・・」
「そんな話やめにして、ボーリングにでも行こうよ。ストライクでも出せばそんな気持ちすっ飛んじまうさ」
彼は、もうたくさんだと言う様に大きな欠伸をしてから立ち上がると彼女の方に目を向けた。と、次の瞬間、彼はその場に棒立ちになった。
今まで彼女が坐っていた椅子の上には、黒のとっくりのセーターと赤いミニスカートが、空気の抜けた風船のように萎んでそこにあり、その襟元からは、頭に一本の角を生やした小鬼が一匹、彼をじっと見つめていたのだった。まるで彼を詰るかのように。