会話  夢枕 獏

 「ごちそうさま」と子供は言った。「おばさん、ママのシチュー、おいしかったよ。やっぱりパパのよりうまいや」
 「そりゃそうですよ、おかあさんていうのはね、誰よりも子供のためにってこと、思ってるのよ」
 「だけどぼく、ほんとはママの子供じゃないんだろ?おばさん言ってたじゃないか、もとのお家へ帰るんだって。今日だろ」
 「そうですよ、もうすぐね」
 「ぼく、なんとなくわかってたんだ。この家の子じゃないってこと」
 子供は頭へ手をやった。
 「パパもママも、よその人が来るとぼくのことかくしちゃって・・・内緒にしてたんだ、ぼくのこと」
 「でも、あしたからはもう内緒じゃないことよ。お家へ行ったら」
 「だけど、ママのシチュ、もうあれが最後なんだろ?ぼく・・・」
 「なあに?
 「ママの骨、持って行っていい?」
 「ええ,いいことよ。だけど、かじったりしちゃだめよ、消化に悪いから)お家に行ったら、もっとやわらかい赤ちゃんのお肉で、おいしいシチューを作ってあげますからね」
 「わあ、すごいや。おばさんたら、なんてうれしいんだ」
 笑いながら、角のある子供は、まっ赤な口唇から、かわいらしくつき出した白い牙をのぞかせた。


戻る