古跡発掘  藤森 重臣

 「博士、ここら辺は、相当文明の盛えた古代人が住んでいた所なんでしょうね」
「そうじゃなあ、今から約五千年位前に定住していたんじゃろう」
「へーつ、そんな昔なんですか。所で、この溝みたいなのは何ですか?」
「ほう、どれどれ、それは下水路という物じゃ。そしてそこ、ほら君の立っている所じゃ、そこが風呂場だったらしい」
「然し、博士はさっき、あの建物が共同浴場だと仰いましたね」
「そう、古代人というのは、共同浴場を建築し、又、各家庭に風呂場を設置したのじゃ。風呂場のついていない家も、半分位はあるんじゃがね。清潔好きだったと言うよりか、何か神聖な儀式だったんじゃないのかね。それとも、風呂を持っていない下層階級の者達が、共同浴場を利用したのかもしれん。共同浴場は一つに仕切られていて、それぞれに湯舟がついている。身分の適いで分けたのか、性別で分けたのか、それは分らん」
「成程、それから、あそこに見える一際目立った建物は何ですか」
「あの建物は、この都市の独裁者が政治を執り行なった所らしい。しかも、二百人位が入れる程の大きな部屋が三つもある。この都市の主だった人達を集めて説教や演説でもしたのかもしれん」
「ふーん。それから、この箱みたいな物は何ですか」
「どれどれ、それはテレビジョンという物じゃ」
「あー、あの電気という物が通じていなければ、映らないという不便な物ですね」
「不便かどうかは分らんぞ。昔の人々は使利だと思って使っていたに違いないのだからな」
「テレビジョンの横にあるのは何ですか」
「それは、テープレコーダーじゃ」
「あの自分や他人の声を録音しちゃ法悦して、喜んでいた物ですね」
「たぶんそうじゃろう」
「所で、どうしてこの古代都市はこのように、廃墟と化したんでしょう?」
「それはじゃ、わしの推察する所によると、これだけの文明を発達させてきた人達の、蝿み合い、戦い等によって、文化が創造した利器と言うべき機械によって、滅亡したらしい。もっとも機械と言っても、専ら殺人兵器として利用されたらしいのじゃがな」
 「成程、すると自分達の作った武器によって、自らの首を締めて滅んでしまったという訳ですね」
 「そう言えるじゃろうな」
 「ですから、私は矢張り古代人というのは、我々と比べると知能程度が低かったんでは、ないかと思うんですが」
 「ほう、そりゃ又、どうしてじゃね」
 「今聞いたお話の様に、自らを壊滅の道へと導びくという愚にもつかない事をやってみたり、又、生存中は自分連の家を建てる等という、無駄な労力を費やしたりしたからです」
「ま、そういう無駄な労力を使うのが古代人の古代人たる所以じゃろうな」
 「そうすると、古代人は無駄骨を折ってみたり、馬鹿な事ばかしやっていたんですね」
 「・・・」
 「それよりも、我々みたいに、自然の洞窟に住んで狩猟や漁労をして、喧嘩もなくのんびりと暮らしていく方が、どれ程良いかー」


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